スタートアップ企業上場支援の専門家に聞く(2) IoT・AIなど最新技術と社会の未来
2018年6月11日
近時、AIやIoTと呼ばれる、技術の進展に伴う新しい産業の領域が生まれてきています。こうした潮流は、社会に大きな影響を与えることは確実であると言われています。前回、スタートアップ企業についてお聞きした、ベンチャーキャピタリストの足立健太氏に、今後の産業や社会の変化について大局的にお聞きしました。(➜前回の記事はこちら)
今回お聞きしたのは、ベンチャーキャピタルファンドIDATEN Ventures ( イダテンベンチャーズ →ホームページはこちら) を運営する、IDATEN Ventures LLCの代表 足立健太氏です。
【ご経歴】
理学修士、米国公認会計士(inactive)。早稲田大学理工学部及び同大学院理工学研究科卒業、専攻は物理学。大学院在学中にスタートアップ企業の役員を歴任後、㈱リクルートで、組織人事コンサルティング・商品企画・経営企画担当としてグローバルM&A等に関与、後、KPMGグループで各種M&A案件等のビジネス・財務会計面での支援を幅広く担当。その後、再びスタートアップ企業の経営をした後、孫泰蔵氏がけん引するスタートアップ支援スペシャリスト集団Mistletoe㈱でベンチャーキャピタリストとしての経験を経て2017年に独立、10億円規模のVCファンドを組成。製造業・建設業・物流業を支える技術やサービスを開発するスタートアップに特化した投資・支援を行っている。技術的案件を得意とし、財務会計・組織・制度等にも知見が深い。
―――本日はありがとうございます。先進技術と社会の変化、貴社のビジョンについてお伺いしたいです。まず、IoTということが様々な場所で言われていますが、そもそもIoTとは何なのか、お教えください。また、こうした領域は産業として有望だと言われていますね。
足立(以下、敬称略)IoTとはInternet of Thingsの略称で、直訳するとモノのインターネット、意味合いとしては「モノがインターネットに繋がること」だと言われています。名称はそのまま全体を表していると言えるのですが、これまでスタンドアロンであったモノがインターネット経由で付加価値を持つため、大きな可能性があると考えています。
―――家電などでインターネットにつながったものが出てきていますね。様々な商品が、高機能化していく、ということなのでしょうか。
足立 現状既に出ている商品から考えると、かなり限定的なイメージに留まってしまうと思います。私は、IoTの本質は単純に「モノがインターネットに繋がること」ではなく「インターネットがリアルの世界を直接触ることができる『身体』を手に入れること」だと思っています。
これまでのインターネットの直接的な影響範囲はサイバー空間に留まっておりました。しかし、そのインターネットが身体を手に入れることで、いよいよ、インターネットがリアル空間にも直接影響を及ぼすことができるようになる、ということです。インターネットというのは、要は情報網ですから、人間で言えば神経伝達網に当たるものです。その情報伝達網が身体あるいは身体知を手に入れるということは、それはもう、生物と同等の機能を手に入れた、と考えることができないでしょうか。
神経伝達網と身体知、これらを備えたものは、生物とニアリーイコールであり、となると生物と同じく、インターネットあるいはモノが知能に等しいものを手に入れるようになる、だから今また、人工知能あるいはAIという言葉をいたるところで耳にするようになったのでは、と考えています。
―――インターネットが身体を持つ、ということですか。もう少し具体的にイメージできるように説明頂けますか?
足立 我々を、相互に有機的につながったインターネットの身体が意思を持って取り囲む、という風に捉えると、色々な可能性が見えてくるのではないでしょうか。
たとえば家電がインターネットに繋がり、生活上の必要品を把握することができれば、不足しているものがあれば、過去の統計から、家電の方から購入を促すような機能も登場するかもしれません。その週の行動の傾向から見て、必要になりそうな、様々なサービスを提案してくれる、ということが可能になるのかもしれません。
もっと想像すると、私たちの表情や行動を捉えるセンサーがついたら、たとえば、私がどういう行動をした時に何が食べたいか、ということが統計的に見えてくるでしょう。
別の例では、ある食べ物が欲しそうな時にリコメンドしてくれて届けてくれて、どこかに行きたいと思ったときに自動運転車を呼んでくれる、などといったことなども可能でしょう。こうした、生活や社会の様々な場やニーズにおける、サービスや必要性が、IoTによってどこまでも精緻なものになり、発展していくということではないかと思います。
―――なるほど、IoTによって世界が激変していくということなのだと分かりました。便利になる反面、とても怖い面もありますね。
足立 はい、人間の価値はなんであるのか、ということが問い直されるということでもあると思います。ひとくくりにAIと言ってしまうことには抵抗感がありますが、部分的には既に人間を上回っているAIも多く登場してきております。例えば、アルファ碁など、有名な話です。人間としては、計算能力や長期記憶能力など、部分的に自分より優れた知能をもつAIをうまく組み合わせて使って、何か新しい価値を生み出していく、そういった力を磨いていく必要があると思っています。例えば人間が、自分よりも圧倒的に速く走ることができる自動車をうまく使って、効率的に移動している、といった具合です。この流れが、肉体面のみならず知能面でも起こってくるでしょう。
―――こうした産業の流れは、どうして起こってきたのでしょうか?原因や、未来を見通す上での参考になりそうなことなどがあるのでしょうか。
足立 私が産業や社会の流れを見る時に参考にしている研究結果があります。Carlota Perezがその著書「Technological Revolutions and Financial Capital: The Dynamics of Bubbles and Golden Ages」で示している研究内容なのですが、産業革命後、技術革新は50年サイクルでおこっており、その技術革新サイクルのいずれもが、「新技術の乱入」「新技術に対する熱狂」「新技術と既存技術との融合」「新技術の成熟化」という4つのフェーズを経ている、というものです。また実態以上に新技術を持ち上げる「熱狂」の後には必ず経済バブルがはじけている点も特徴的で、やはりインターネットにおいてもネットバブルがはじけたことは、記憶に新しいと思います。
―――大変分かりやすいですね。
足立 新技術に関するバブルがはじけた後は、人間は冷静になり、その新技術と既存技術との融合を推し進めます。ちょうど今、FinTechとかAgriTechとか、インターネットと既存産業が掛け合わされた●●テック、という言葉をよく耳にしますが、まさにインターネットと既存技術の融合が一気に進んでいる時期なのです。もちろん、IoTは、モノとインターネットの融合にあたります。
―――そうすると、今後はどのようなことが起こっていくのでしょうか?
足立 当面、インターネットと既存技術との融合が進んでいくでしょう。それらが落ち着くと、やがてインターネットは本当に社会実装された技術として、文字通り広く社会を支えていく、つまり本当に技術が活用されていくフェーズに入っていくと思います。
―――なるほど、今後の社会はどのようになっていくのでしょうか?また、特に、社会保険労務士もその一つだと思いますが、知識集約的な産業は、今後どうなっていくのでしょうか?
足立 皆さんも多方面で感じておられることと思いますが、引き続き、社会全体に大きな変革が起きていくことは間違いないと思います。例えば、部分的に自分より優れた知能がどんどん誕生してきます。その流れの中では、人間の判断そのものの、倫理や判断、創造性などは、人間の可能性として残っていくのではないかと思います。こうしたクリエイティブな能力以外の面は、IoTやAIの進展によって、機械に置き換わっていくかもしれません。
―――なるほど、知識集約的な産業についてはどうでしょうか?
足立 知識を習得して吐きだすということや、検索して調べる、一定の作業をする、という技術は、徐々に人間が行うことではなくなってくるはずです。まだしばらく先だという意見もありますが、技術革新のスピードというのは、本当に分からないものだと思います。もしかすると数年先かもしれません。いえ、明日かもしれません。いつ社会がその変化を実感できるようになるかは、わかりません。想像もできないほど速い変化である、ということも十分に考えられます。
反面、人間のクリエイティブな能力まで置き換わるのは、まだ先のことだと思います。ここまでが機械に置き換わった世界については、想像を越えてしまいますね。とはいえ、既に作曲や料理レシピを考案するAIも登場してきている点は、特筆すべき点ではあります。
―――大きな視点からの変化が、大変よく分かりました。こうした社会の中での足立さんご自身の展望についてお教えください。
足立 私としては、モノとインターネットとの融合を、より社会に有意義な形になるよう、進めていきたいと思っております。実際、これまで述べました通り、情報とモノをどう繋ぐか、という部分に大変革が起きていくと思います。その流れの中で、インターネットの身体となる、モノをこの世に生み出す製造業や建設業、そうして生み出されたモノを世界にあまねく届ける物流業などに、どんどん新しい技術やサービスを届けて、産業全体を活性させていきたい、そう強く思っています。
IDATEN Venturesでは、こうした展望に基づいて、特に製造・建設・物流の領域に注力し、製造・建設・物流を支える技術やサービスを開発しているスタートアップの支援を続けております。そして、単なる支援に留まらず、自分もその活動のパートナーとして主体的に関わっていくことで、新しい社会を創っていく1人になることができればと考えています。
(執筆・東京都社会保険労務士会 HR NEWS TOPICS編集部 松井勇策)