フィンテックとHRテックを牽引するfreeeの企業文化と人事制度(2)

2018年9月1日


テレビや新聞で注目を集めているフィンテック(金融とテクノロジーを組み合わせた造語)とHRテック(人事とテクノロジーを組み合わせた造語)。その両方の業界を牽引するfreee株式会社で人事を担当されている古塚大輔様に、HRテックの現状、社内での価値基準と企業文化に根差した人事制度についてインタビューを行いました。今回は2回目の掲載で前回の続きになります。

データに基づいた人事評価

―――価値基準と人事評価は強く結びつけているのでしょうか。

古塚 いえ、評価制度の等級定義に少し関連付けていますが、評価と価値基準は直接結び付けていません。採用時点で価値基準にマッチするポテンシャルを強く持った社員を採用しているので、社員に価値基準について何かを強制することはしないようにしています。

―――それは意外でした。ではどのように社員の方の人事評価をされているのでしょうか。

古塚 基本的には一般的に等級に該当する能力指標に基づき期待されたアウトプットや組織への貢献・影響力などで確認しています。自主性を重んじた目標や達成アプローチを実現できるOKR(Objective and Key Result:目標と主な成果)も活用して目標や成果の管理をしていますが、この達成度合いは評価には影響させていません。あくまでも、前述の能力指標に基づく期待値としてどうだったかを見ます。そうすれば、異なる能力指標で同じ役割を担っている社員がいても、しっかり各自の能力に見合った評価ができると考えています。また、OKRの達成度合いを評価に影響させないことで、社員はOKRの設定で保守的にならずチャレンジングな数字を設定できます。

―――なるほど。御社は評価で確認するアウトプットやOKRの達成度をどのよう設定しているのでしょうか。

古塚 シリコンバレーなどで使われている最新のツールを使って社員のアクティビティを測定しています。セールスならコール数に対するアポイントメント数や訪問件数、カスタマーサポートなら一件の問い合わせに対する時間や、やり取りの中身から回答の効率性や正確性を測定します。私もfreeeに入社して、ここまでデータドリブンな(データに基づいている)会社は初めて経験しました。

 自由な企業文化と人事制度

―――現在も年間の離職率は6~7%程度と低く(平成 28 年雇用動向調査結果の概況によると日本全国の平成 28 年1年間の離職率は 15.0%)、2018年働きがいのある会社ランキングでも従業員100~999人の中規模部門で8位と4年連続でトップ10内にランクインされていますが、何が原因と考えられますか。

古塚 特にこれといった人事施策は思いつきませんが、社員が総合的に見て働き続けたいと感じていてくれているのかなと思います。あえて挙げるとすると、自由な社風です。働き方もうるさく言わなかったり、仕事の進め方にも裁量を持たせています。また、発言する自由があり意見の交換は活発にできるので、言いたいことが言えなくてストレスになることは少ないと思います。そういう意味では組織は大きくなってきていますがスタートアップの良さを維持できていると言えます。

―――人事制度を導入したり変更するときの流れについて教えてください。

古塚 人事制度を導入・変更する流れとしては、経営層が課題を前もって社員に共有し、その後人事制度を導入・変更します。ただし、その制度が変わりうることまで社員にコミュニケーションできているので、制度が変わることに抵抗は少ないと思います。

―――どのようなタイミングで人事制度を導入したり変更するのでしょうか。

古塚 制度を導入・変更するきっかけの一つとして、年に一度、約100問のサーベイを社員に実施し、組織を定量的に比較できるようにしたり、主要な制度(評価制度など)は定期的に振り返りを行なって、経営層やマネージャーから課題をヒアリングしています。

当社は全体的にサーベイの結果は高いのですが、意思決定のスピードというサーベイの項目が相対的に少し低い結果(5点満点で3.5を少し下回る値)が出たことがあり、当時あった意思決定機関を廃止し意思決定を現場に任せました。その結果翌年その項目が改善し4.0に近づくまでになりました。

また、従業員が増え続ける中で、同じ外部のチャットツールを使い続けた結果、社内で情報が氾濫し、サーベイで「情報収集の負担が増し、仕事の生産性を落としている」という結果が現れたので、社内のコミュニケーションツールをWorkplace(Facebookの法人向けサービス)中心に変えました。

―――ここでもデータドリブンですね。人事制度を導入・変更するとき、どのようなことに気を付けていらっしゃいますか。

古塚 制度導入の考え方ですが、設計段階では社員から出てくる疑問や懸念、社員が利用・適用されるあらゆる場面を想定して準備します。ただし、当社の自由な社風に合うように、なるべく前向きに見える説明の仕方や人事制度を考えています。そして導入後は社員を信頼して運用します。

就業規則はもちろんありますがルールとして強く縛ると裁量や柔軟性が失われるので、それだけでなく考え方も共有しています。例えば、エンジニアは裁量労働制で平均して午前11:00に出社するメンバーが多いです。一方、セールスや管理部門はフレックスタイム制で午前9:30や10:00から仕事を始めますが、エンジニアと打合せをする場合、午前11:00以降しか設定できませんでした。しかしセールスは午前10:00から商談が始まるので、これでは時間の使い方として効率がよくないですよね。だから、エンジニアには午前10:00から午後6:00まで会議が入る可能性があることを説明し、会議があるときは午前10:00に出社してもらうようにしました。そうすることで、職種や個人間で変なストレスを感じることなく気持ちよく仕事ができるようになります。

―――自由な企業文化ながらも価値基準で方向性を示し、コミュニケーションをしっかり取りながら、測定したデータに基づくアプローチによって働きやすい環境を作っていることがよくわかりました。

古塚 他のスタートアップでもやっている人事施策がほとんどだと思いますが、当社の文化にフィットしているのがいいのかもしれません。そして社員が福利厚生や給与だけでなく、エンジニアなら自分のスキルの成長や優秀な人と仕事ができること、セールスならデータドリブンでのセールスやインサイドセールスなど他社では経験できないような新しいものに触れたり、経験できることも含めて、働く環境を総合的に見てくれているので、低い離職率や働きがいのある会社ランキングで上位に入賞させていただいているように思います。

―――本日は貴重なお話どうもありがとうございました。

(執筆 東京都社会保険労務士会 HR NEWS TOPICS編集部 加藤秀幸)