外国人材の受け入れのために本当に大切なこととは しんじゅく多文化共生プラザ
2019年2月27日
2019年4月の出入国管理法の改正で新しい在留資格「特定技能」が創設されることになり、より多くの外国人労働者が日本で就労することが予想されます。外国人の受け入れに当たっては、業務上だけでなく生活関連の支援も重要です。
生活上や企業の中で、外国人の方をより良く受け入れていくために役に立つ、新宿区が運営する施設が「しんじゅく多文化共生プラザ」です。地域や職場で困っている外国人の方がいらっしゃった時には、まず日本人の側が主体的に関わっていくことが大切です。その際、ここに来れば、行政サービスを始めとするさまざまな多言語情報や日本語教室の情報を得ることができます。
今回は、東京都新宿区歌舞伎町にある施設にお伺いし、所長の鍋島協太郎様にしんじゅく多文化共生プラザについて伺いました。
―――本日はありがとうございます。まずはしんじゅく多文化共生プラザについて教えて頂けますでしょうか。
鍋島(以下、敬称略)新宿区では外国人住民の割合が高く、2019年2月現在、住民登録人口の約12%が外国人です。しんじゅく多文化共生プラザは、日本人と外国人の交流を促進し、文化、歴史等の相互理解を深め、もって多様な文化を持つ人々が共に生きる地域社会の形成に資することを目的として、2005年9月に開設されました。ここでは、日本語学習のための書籍、生活に役立つ多言語の情報、地域のイベント情報の資料などをご用意しています。
日本語学習や交流に使えるフリースペースも用意してあり、朝9時から夜9時の間、無料でどなたでも自由に利用できます。外国語で相談できる無料の外国人相談コーナーもあります。また、多目的スペースでは、日本語教室や外国語学習会、交流会などが行われています。
―――とても便利な施設ですね。
鍋島 外国人の方々が日本で生活するうえで、やはり言葉の壁は大きいです。そのために、まずは日本語を学べる環境を用意することが大切です。地域で多数を占めるのは日本人であり地域の共通言語は日本語なので、プラザなどで学んだ日本語で地域の日本人とコミュニケーションをとれることが、多文化共生に繋がると考えています。是非プラザを活用して日本語を身に付けていただき、地域の人と交流して欲しいです。
―――素晴らしいコンセプトですね。プラザでは、どのような資料を用意されているのでしょうか。
鍋島 さまざまな多言語の資料を用意しています。はじめて日本で生活を始める人のために、外国人の方と一緒に編集した「新宿生活スタートブック」や、税金や福祉、教育などさまざまな分野の行政関連の情報、健康保険制度の多言語資料などがあります。
また、日本語学習については、有料・無料の日本語教室の案内、ボランティアが主催する教室の情報などを用意しています。日時が合わず教室に来られない人のために、日本語学習用のWebサイトやオンラインの日本語学習コース、スマートフォンのアプリケーションの資料なども、国際交流基金関西センター様から取り寄せています。
―――銭湯の魅力や入り方を説明した多言語パンフレット(英語、中国語、韓国語対応)があるのが面白いですね。
鍋島 銭湯は、日本語に不慣れな外国人でも日本人と知り合いになれる場でもあります。銭湯を楽しんでもらうとともに地域に知り合いを作る機会になるといいと思い、全国公衆浴場業生活衛生同業組合連合会様が作成されたパンフレットを配布しています。
―――多目的スペースでは、どのようなイベントが開催されているのでしょうか。
鍋島 多目的スペースは、多文化共生を目的とする催しに貸し出しています。今は、日本語教室で利用する方が多いですね。その他、外国語を学習する会や交流会などが開催されています。
―――多目的スペースの利用資格や手続等を教えて頂けますか。
鍋島 多目的スペースは、多様な文化を持つ人々が共に生きる地域社会の形成に資する活動を行う団体及び個人が利用できる場所です。利用にあたっては、非営利目的で多文化共生や国際交流に関する活動であることが必要です。またイベント情報は、希望する新宿区民が参加できるように公開していただくようお願いしています。利用料は無料です。
―――無料でイベントを開催したり、参加したりできるのですね。多くの方々に利用して頂きたい施設ですね。
―――外国人相談コーナーでは、どのような相談が多いのでしょうか。
鍋島 行政手続の方法、日常生活上の悩み、家族や結婚、子どもの教育や子育て、在留資格、仕事など相談内容は様々です。在留資格に関することなど外国人ならではの相談もありますが、暮らしや家庭に関する悩みなど、生活に関する相談も多いです。生活に関する悩みは国籍には関係ありませんね。外国人相談コーナーでは、このような悩みや相談に対して、相談員が外国語で対応しています。もちろん無料です。
本庁舎では、外国語相談員やタブレットによる多言語対応が可能なので、行政手続きであれば直接本庁舎に行っていただくのが良いと思います。当プラザでは、行政手続きはできませんが、中国語、韓国語、ネパール語、ミャンマー語、タイ語のネイティブの相談員がいますので、生活上の悩みなど、文化を共有して相談に乗れることが強みだと感じます。プラザの相談員は母国と日本の両方の暮らしに詳しいので、ぜひプラザの相談員に相談して欲しいですね。
―――外国人の方々は、日本の習慣や制度などで戸惑うことも多いでしょうし、どこに相談すればいいかもわからないこともあるかと思います。このように気軽に相談できる無料窓口があると、とても心強いですね。
―――しんじゅく多文化共生プラザでは、外国人との共生のための活動を精力的にしていることがわかりました。多様な文化を持つ人々が共に生きる地域社会の形成のために貴重な役割を果たしていると思います。
鍋島 現在、地域における交流の促進に力を入れています。新宿区は約8人に1人が外国人ですが、地域の中で交流が少ないと言われています。生活の場で外国人と日本人が互いに触れ合い、顔見知りの関係になることが大切です。生活の場で互いに知り合うことで安心して生活することができますし、友人ができるきっかけにもなります。
また、例えばゴミを捨てる曜日を間違えたときなどに、困りごとやわからないことなどを近所の人に聞けますし、そうしたやりとりによってトラブルを防げることもあると思うのです。そのためにも、地域の人と触れ合える交流を大切にしたいです。
―――なるほど。興味深いですね。
鍋島 例えば新宿区大久保の住民は4割前後が外国人ですが、地域の外国人と日本人のコミュニケーションが十分に取れているかというと、決してそうではないと言われています。地域の中で交流が増えることが理想ですし、そうした日常のつながりが災害時など緊急時のセーフティネットにもなります。
―――こちらのプラザは、企業の方も利用ができるのでしょうか?
鍋島 企業の方に利用していただくとすると、日本で生活するにあたって知っておくと良いこと、行政制度のほか地域のお祭り、銭湯、駐輪マナー、防災などについて概要をまとめた多言語の冊子や、先ほどご紹介したスマホやウェブで日本語を学べるツールの情報などを活用していただくことが考えられますね。新宿区の施設ですので情報によっては区外に住んでいる方には合わないかもしれませんが。先日、企業の方が日本のルールやマナーを教える資料が欲しいということでお越しになり、新宿生活スタートブックや東京都のLife in Tokyoなどの多言語資料をお渡ししました。
―――外国人の方にさまざまな情報を得てもらう、日本語を学習してもらう場として活用する使用されるようにお話すればいいのですね。
鍋島 そうですね。当プラザは、外国の方に多言語で様々な情報を取得し日本語を学んでいただくことで、外国人住民の方がスムーズに新宿区で生活できるように支援しています。当プラザを活用していただき、地域に日本人の知り合いを作ってほしいと思います。知り合いができたら、日常生活のルールやマナー、日ごろの悩みなどはそうした人に相談しながら暮らせると、地域の中に交流が生まれ、日本人外国人双方にとってよりよい暮らしになるのではないかと思います。そして、このことを通じて地域に暮らす誰もが、安心して快適に生活できるようになって欲しいと願っています。
―――2019年4月施行の出入国管理法の改正に伴い、外国人労働者がより増えることが予想されますが、それに対しての取り組みなどはありますか。
鍋島 新宿区では既にたくさんの外国人の方が暮らし、学び、働いておられることを踏まえ、浮かび上がる生活課題に対応して様々な取り組みを行ってきました。これからも、日本人と外国人がより良い暮らしをおくれるように、多文化共生の推進に向け、しんじゅく多文化共生プラザの役割を果たしていきたいと考えています。引き続き、地域での外国人と日本人のより良い暮らしのために、外国人への多言語情報の提供、日本語学習機会の提供、外国語相談と行うとともに、地域での交流の促進に向けて努力してまいります。
―――制度改正の対応にとらわれていると、本当に大切な部分を見落としてしまうことかもしれませんね。大変参考になりました。本日は貴重なご意見と情報をどうもありがとうございました。
(執筆 東京都社会保険労務士会 HR NEWS TOPIS編集部 永井知子)