ベンチャー企業の先駆け ダイヤル・サービス株式会社が『電話』で受ける社会的ニーズ(2)

2018年9月18日


1969年、日本初の電話秘書サービスを開始した会社が、今野由梨氏が率いるダイヤル・サービス株式会社です。1971年には、核家族が生み出した育児ノイローゼと子殺しの事件に心を痛め、母と子を救いたい一念で始めた「赤ちゃん110番」が、世界初の育児電話相談サービスとなりました。

その時代の世相を映す様々な「電話相談」。今ではどんな社会問題が浮き彫りになっているのか。また、様々な「電話」サービスを生み出し、ベンチャー企業の先駆けとも言える、ダイヤル・サービス株式会社とはどんな会社なのか、電話相談員はどのように生まれるのか、今野社長に取材しました。

(1)から続きます

「ベンチャーの母」として

―――ベンチャーに対する想いは何ですか

今野(以下 敬称略) 私は、ベンチャー達の能力をどんどん生かして、彼らの仕事、財産、サービスを世に顕在化させたい。この国のために、お役に立たせてこそ、ベンチャーではないかと思います。彼らを「殺さない」ためにも、ベンチャーの母として応援していきたいと思っています。

 

―――ベンチャーの先駆けであるダイヤル・サービスの一番のポイントである、社員、中でも電話相談員はどのように生まれるのでしょうか。

今野 相談員は、相談内容の各分野で経験を積んできた人であったり、資格を持った専門家、かつ一番大事なことは(仕事に対する)想いの熱さです。

特に自分の経験を世のため人のために生かしたいという想いが大切です。こういった志を持った人は自然と集まってきます。

自然と社員が集まる会社が良好

―――「人が自然と集まる」とはどのようなことでしょうか。

今野 社員さん達が、やりがいや生きがいをもって仕事をすることができる環境が大切だと思います。そういった環境があれば、自然と人が集まるのではないかと思います。

「働き甲斐のある会社」という世界中で行われたアンケート調査がありまして、「自分自身が行っている仕事、会社そのものが展開している事業内容、そのそれぞれが、『世の中のためになっていますか』」という質問では、私の会社のほとんどの社員が「感じている」と答えています。これは、他の会社に比べてダントツに高く、これが口コミで評判が広がり、社員が集まる仕組みになっているのではないかと思います。一番うれしいのは、社員が、自分の知り合いを連れてきてくれることです。社員が、自分の会社に自信や信頼があるからできることであって、また、紹介した社員は自分の会社に対する自覚を持つようになりますし、紹介されて入社した社員は、紹介した社員に恥をかかせないようがんばります。双方に良い関係が築けるようになります。この関係が最高だと思います。

 

―――自分の知り合いに紹介できるような会社にすることが重要なのですね。電話相談員には非常に高い技術を要求されるかと思いますが、社内での訓練や研修はどのようにされているのでしょうか。

今野 まず新入社員の研修があって、部署ごとの研修があります。これには決まったカリキュラムがありまして、長いところですと3か月ぐらいかかります。サービスを提供する上で必要な技術を、その部署のメンバーから習得していく方法となっています。例えば、自動車教習所のように何段階ものカリキュラムがありますように、カリキュラムの個人ごとのファイルを作り、「ここは教えた、ここはクリアした」とチェックして、研修の習得具合を視覚化しています。これによって、週の所定就労日数に違いがあるために、時間によって測れない研修の進み具合が分かるようになっています。入社研修でも、知識の研修に加え、実際のロールプレイングをして、実践に備えるようにしています。

 

―――入社されてからの工夫はありますか?

今野 入社してからも相談スキルが正しい方向で定着できているか、定期的に同じように訓練や研修をし、記録して残して、蓄積されるようにしております。さらにミステリーコール(実際のお客様を装って、電話応対の実態を把握する調査)を行って、当社の品質保証基準に沿って、そのサービスがしっかりと行われているかの確認もしています。その結果を相談員にフィードバックをし、次の研修にも生かしております。当社では「健康相談」というサービスも行っていますが、看護師や保健師が100名ほどいます。健康相談にはその季節ごとの注意点(夏で言えば熱中症など)がありますので、毎月、ドクターを講師として招き、研修を行っています。

―――相談員の資質向上に力を入れることによって、会社が発展していくということでしょうか。

今野 当社は、電話さえあればできる業務ですので、社員に対する研修が、設備投資になります。「人財投資」です。「企業倫理(内部通報)」サービスでは、相談者(委託をした会社の社員)の声を、委託をした企業に報告をするのですが、その報告内容に対する企業側の声を、今度は社内の相談員にしっかりフィードバックをします。それにより、相談員の自身の業務に対する満足感を持つようにしています。また、委託元である企業に、顧客満足度調査を毎年行っています。全社が100点満点になることはありませんが、不満や課題、要望を、毎年一つ一つ無くしていこうと、自社努力をしています。

 

―――視覚化することによって、研修や評価は、社員にとって公平になりますね。

今野 最初は立派な制度はなかったのですが、50期目を迎えて、少しづつ社員が知恵を出しながらやっていくうちに、「仕組み」になりました。社員が技術を習得するのはとても重要であることは勿論ですが、「How to」の前に、企業の理念や、我々に与えられた社会的使命をこそ、しっかり持ってもらいたいと思っています。

 

企業理念「個性と人間性が尊重される秩序ある社会」

―――企業理念で「個性と人間性が尊重される秩序ある社会を目指します」とございますが、実際にどうやって秩序ある社会を目指すのですか。

今野 私が生きてきた時代は、私がすることは何であっても「女性初」で、1人で開拓してきました。私がめげずにやってこれたのも、そのサービスを使ってくれる人の「絶対に(会社を)失くさないでくださいね」という要望と、与えられた使命に絶対に応えるという社員の気持ち、双方の「必死さ」があったからだと思います。誰でも、与えられた使命はあるはずです。私が昔から大事にしている言葉が「Here now」です。なぜ私がここにいるのか、私がここにいる意味は何なのか、無意識に問い続けてきました。私の会社の年表を見て、新しく始めてきたサービスを見ると、それはすべて当時の法律に違反するようなものでした。赤ちゃん110番は、電話料の他に情報料を頂くというビジネスモデルでしたが、これは二重課金制度の禁止による法律違反でした。健康相談サービスは、医師法や保健師助産師看護師法に違反するといわれました。しかしその後、「神の手」を持つといわれたお医者様とともに闘い、法律を変えさせました。今では数多くの自治体が私の会社のサービスを使っています。秩序ある社会にするという私の使命は、社会の根底にある、その時々の人々が持つニーズを、サービスにすることだと思います。

 

―――その時代のニーズ、困った人のHelpを見つける感覚が素晴らしいと思います。その感覚はどのようにして身に着けたのでしょうか。

今野 私は若いころ、海外に行き色々な経験を積みました。この経験が役に立っていると思います。

今のベンチャー企業に向けて

―――今野社長は、女性初や新しいサービスを発信し続け、ベンチャーの先駆けとも言えますが、今のベンチャー企業に向けてアドバイスはございますか。

今野 私は今、いくつかのベンチャー企業の社外取締役をやっておりますが、大企業の道を行く人もいれば、苦労をして、ベンチャーを立ち上げる人もいます。共通して言えるのは、本当に成功する人は、過去にいじめを受けたり、とんでもない苦労や試練を受け、乗り越えてきた人が多いことです。今は、学校も親も(子を)守ることしか考えていないと思います。人は、年齢によってやるべき体験・経験、喜びも悲しみも色々あります。今は時代によってか、それが無くなってしまい、今の子ども達はかわいそうだと思います。

私の体には子供の頃つけた傷跡がたくさん残っています。野山を駆け巡って遊んでいてケガをしたり、女でしたが男の子たちとケンカをして暴れまわっていました。でもその頃、ケンカをしてお互い傷だらけになった男の子達とは、大人になると大の仲良しになりました。強い「絆」が育まれました。
今の時代でしたら考えられません。私は色々な経験、苦しみ、悲しみ、苦労をすべきだと思います。それを乗り越えてきた人が、ベンチャーになるのではないかと思います。この経験が大きなチャンスです。

 

今後の展望~お年寄りの財産の完全燃焼!

―――今後の御社の展望や、どのような社会的ニーズを受け入れていく予定ですか

 

今野 私は今まで会社を展開してきて、世界的なネットワークを築くことができました。私には元々、国境という考え方がありません。また肩書も関係ありません。国境や人種の壁を無くして、新しい時代をもっと切り開いていきたいと思います。そのためには、今の国同士の関係では不可能です。この関係を解決するには、国の力ではなくて、民間力だと思います。国ではできないサービスを展開していきたいと思います。また、私は「命」を大事にしています。例えば、お年寄りの方です。この方たちは、こんな厳しい時代を生きてきて、がんばってこの国を発展させてきました。この人たちに、「定年退職です。お帰りはこちらです!」とは言えません。彼らは、人脈・信頼・技術・知識という財産を持っています。それを生かさずに引退してしまう、これでは、「持ち逃げ厳禁(と呼んでいます)」です。私はこれを許すことができません。「ちゃんと(財産を)生かして、つないで行きなさいよ」と思います。では何に、彼らの財産を完全燃焼させればいいのか、そういった場が必要なのではないかということです。そして彼らからも「(完全燃焼できる場を)作ってくれよ」とも言われます。私が50代でしたら、きっとこの場を作ることはできなかったでしょう。私は80歳を超えていて、彼らと同世代なので、作ることができるのだと思います。これから彼らが財産を完全燃焼できるような場を作っていきたいと思います。

 

―――今野社長、ありがとうございました。

 

最後に

今野社長は、「ベンチャーの母」と言われているように、深い母性を感じることができました。また、これまで様々な女性初の快挙を成し続けたサービスには、この母性や今野社長が経験してきた様々なことが影響しているのではないかと思いました。ダイヤル・サービス株式会社の社員の名刺の裏には、「May I help you」の文字があります。「どうなさいましたか。手伝いましょうか」。我々士業や、どんな企業も、事業を運営するにあたって、忘れてはいけない精神なのではないかと思いました。

(執筆 東京都社会保険労務士会 HR NEWS TOPICS編集部 西方克巳)