外国人労働者から選ばれる国になるために ~技能実習制度や人事制度について
2018年10月10日
日本の労働市場は、少子高齢化と国際化で激しく変動しています。こうした日本で働く外国人労働者と日本企業について、首都大学東京 人文社会学部 人間社会学科 丹野清人教授にインタビューを行いました。
日本の15~64歳の生産年齢人口は1995年以降減少し、総務省が2018年7月11日に発表した人口動態調査によると、初めて全体の6割を切ることとなりました。これに対して、日本で就労する外国人は年々増えており、都内のコンビニエンスストアなどサービス業、技能実習生の受け入れが多い製造業・建設業などでは特に、外国人労働者の存在は欠かせないものとなっています。そして、政府は、建設・造船・宿泊・介護・農業の業種で新たな在留資格を設ける方針を明らかにし、2025年までに50万人増の労働者の確保を見込んでいます。
首都大学東京 丹野先生のホームページはこちら
https://www.tmu.ac.jp/stafflist/data/ta/622.html
―――本日はありがとうございます。丹野先生は、日本で働く外国人労働者と日本企業の研究を通して、外国人の労働者受け入れについて意見を発信されていらっしゃいますが、現状の外国人労働者について、総括的にどうするのが良いと思っていらっしゃるのですか?
丹野(以下、敬称略)はい、大きく2つあります。1つは、外国人労働者に家族滞在を認めること、実習制度の変更によって、長期間日本にいることができる制度を作ることが必要だと思います。それと企業への就業に関し、最初から高い日本語力を求めず、外国人であることの長所をもっと生かす方針を取っていくことです。つまり、より外国人労働者に開かれた国にする必要があると思います。
―――具体的に教えてください。まず、現状の外国人労働者の受入れ状況については、どのように考えていらっしゃいますでしょうか。
丹野 外国人雇用状況報告の直近の集計結果によると、2017年10月末の時点で外国人労働者は約128万人となっています。それに対して法務省のデータによる在留外国人数は約256万人でほぼ倍となっています。つまり外国人労働者に対して、働いていない外国人が同等数いることになります。家族を通常3~4人と考えると、日本にいる外国人の大部分が家族と一緒に住んでいないことになります。
―――外国人労働者数自体は、年々増えていますが、単身者が多いということですね。
丹野 実際のところ、外国人労働者が多いといっても、留学生のアルバイトや技能実習生の割合が多いのが現状です。これらの外国人労働者は、一定期間日本に滞在した後は、いずれ母国に帰ります。
現在、政府では新しい在留資格の創設を検討していますが、家族の帯同は認めていないですし、単に外国人労働者の受け入れ数や、滞在可能年数を延ばしているだけで、根本的な意味で外国人労働者が長期的に日本で働ける体制とはいえないものです。外国人の在留資格には期限がありますから、人を入れ替えたうえで受入れ数を増やす必要があります。このようなやり方は、後に見ていくように、日本で働くこと自体が魅力を保ち続けられない今、将来にわたる日本の経済を考えた時に、永続的な経済政策といえないと考えています。
―――外国人労働者にとって日本で働くことは魅力を失ってきているのでしょうか。
丹野 そうですね。例えば外国人技能実習制度でいうと、数年前までは中国人の実習生が8割くらいでしたが、今では4割弱にまで減っています。これは中国経済の成長により、本国で日本と同じように稼げるようになったため、日本で働く必要がなくなったからです。このことを私たちはもっと重く考えるべきだと思っています。
日本の最低賃金は毎年改正されてはいますが、20円~30円くらいしか変わっていません。外国は急成長しているのに、日本はほとんど変わらず、外国人労働者に見合った賃金を払っていません。外国人労働者が本国の家族に送金をしないといけない中、現状の賃金体系では魅力がないわけです。
―――確かに中国人の技能実習生の数は減っていますね。
丹野 その代わりに今はベトナム人の技能実習生が増えていますね。その他ではネパール人の実習生がここ4~5年で増えています。また、ミャンマー人も増えていたりと、技能実習生は多国籍化しています。
しかしながら多国籍化すると、管理コストがかかります。例えば、愛知県豊田市の西保美小学校と東京都新宿区の大久保小学校は外国人が多いです。しかし、西保美小学校ではブラジル人が多数のためポルトガル語対応のみでほぼ大丈夫ですが、大久保小学校では国籍およそ30、言語およそ10に対応しないといけないため、学校運営費はかなりかさみます。
本来、外国人を受け入れることはコストがかかるものです。ただし技能実習制度は実習生に一定期間日本で実習をしたら、本国に帰国するシステムとなっています。問題に正面から向き合うのであれば、外国人労働者にできるだけ長く日本で働いていただいて、投資した費用を回収しないと労働市場的には破たんすることになります。今のやり方ですと、技能実習制度は長くは持たないだろうと思われます。制度自体を、長期間の滞在を認めるものに変えていく必要がある事は明らかです。
―――長期間働く場合に、外国人労働者にとっては、日本は働きやすいと言えるのでしょうか。
丹野 日本の人事制度では、従業員にいろいろな部署を経験させてジェネラリストを育成するジョブローテーション制度が根強く残っていますが、これは外国人労働者には向いていません。外国人の場合、与えられた在留資格の範囲でのみ活動が認められていますから、日本人労働者のようにいろいろな部署を経験させることが難しいわけです。よって構造的に外国人労働者が出世できにくいシステムになっているわけです。
また、現状の外国人の就労資格の大部分は、家族の呼び寄せが出来ないことも問題の1つとなっています。外国人労働者に長期的に日本で働いてもらい、業績アップに貢献してもらうには、家族滞在ができる状況にすることは必須ですね。
―――外国人労働者に長期で働いていただく環境ができていないということですね。日本で移民を受け入れる方針でないことや、世論が形成できていないということとも関係があるのでしょうか。
丹野 外国人の長期間の労働を認めないことと、移民の方針や世論とは大きく関係していると思います。移民を受け入れない理由として、外国人による犯罪の懸念があるかも知れませんが、世間で言われるほど外国人の犯罪の心配はありません。統計によると外国人の犯罪は入国管理法の違反が多く、いわゆる凶悪犯罪は少ないです。
2年後に東京オリンピックが開催されますが、実はこれに期待しています。というのは日本で活躍しているスポーツ選手には二重国籍の人が多いからです。こういった方々にメディアに出ていただくことにより、移民に対する壁がなくなればいいと考えています。
今後の日本にとって、外国人の方々が日本で働く環境を整えることは必ず必要だと言えます。私たちの意識を変えていき、環境を整えていく必要があると考えています。
―――本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。
(執筆 東京都社会保険労務士会 HR NEWS TOPICS編集部 永井知子)