国境を超えた人材交流を実現する技能実習制度(2) 外国人の技能実習制度の実際と企業へ伝えたいこと
2018年6月25日
外国人技能実習制度は,国際貢献のため開発途上国等の外国人を日本で一定期間(最長5年)OJTを通じて技能を移転する制度です。
技能実習生の受入れ方法で全体の96.4%を占めている団体監理型では、非営利の監理団体が海外の送出機関と連携を取りながら技能実習生を受入れ,傘下の企業等で技能実習を実施します。技能実習生は日本入国後、約1~2ヶ月の間、監理団体が実施する「入国後講習」を受けることになっています。
2018年5月末現在、全国の監理団体の数は2144となっておりますが、技能実習に対する監理団体のサポートの質や体制にはかなり開きがあります。トラブルがなく質の高い技能実習を行うためには、技能実習生たちだけでなく企業側・監理団体側の努力も必須となります。
今回は外国人の技能実習制度の実際と企業へ伝えたいことについて、公益財団法人 国際労務管理財団(I.P.M.)大阪事務所の職員であり社会保険労務士でもある橋本裕介様から、兵庫県神戸市にある六甲山研修センターで行われた勉強会にてお話を伺いました。勉強会では大阪府と兵庫県から7名の社会保険労務士のみなさまがご参加され外国人技能実習制度について議論しました。
国境を超えた人材交流を実現する技能実習制度(1) 監理団体の最前線
公益財団法人 国際労務管理財団( I.P.M.)のホームページはこちら
公益財団法人 国際労務管理財団( I.P.M.)六甲山研修センター
―――本日はありがとうございます。 I.P.M.の六甲山研修センターは、神戸港の夜景なども見下ろせる、素敵な場所にありますね。
橋本(以下、敬称略)I.P.M.で受け入れた技能実習生は、日本に入国したらまずこの六甲山研修センターでの入国後講習を受講します。ベトナムを始めとしたさまざまな国から毎月40名ほどの実習生が、ここで約1カ月間の学習後、全国の企業に配属されます。六甲山研修センターでの入国後講習での仲間は、いわゆる「講習同期」として企業配属後も強いきずなで結ばれていることが多く、慣れない日本での生活において心の支えになっています。
―――全国6か所に事務所を持つI.P.M.ならではの規模ですね。どのような講習を行っているのでしょうか。
橋本 まずは、日本語・生活一般に関する知識・法的保護についてなど、制度で定められた講習を行います。自習ばかりの講習や、講習中の食事の提供がない監理団体もあるようですが、I.P.M.では専任の教員と指導員が連携して健康管理を始め、しっかりとした指導体制を構築しています。
また、生活指導や料理実習なども日本で生活を始めるにあたり重視しています。例えば、毎日の朝昼晩の食事は決められた献立を当番制で作り、食事の準備から後始末まできちんと指導しています。約1か月の講習期間が終わるころには日本式の食習慣を身に着けられるようなカリキュラムになっています。
――― 日本語や技能の習得だけでなく、日本で生活するための準備もできる講習になっているのですね。
橋本 はい、生活の面では、実習生から「おとうさん」と呼ばれて親しまれている竹藤施設長をはじめとしたスタッフが24時間体制で常駐し、安心して日本で生活をしていけるようさまざまなケアをしています。また、配属先の企業にとっても技能実習をスムーズにスタートできるかどうかに関わってきますので、I.P.M.ではこの六甲山研修センターにおける約1か月間の教育を特に重要視しています。
――― 法務省の報道発表資料によると、平成29年の技能実習制度の不正行為では、賃金等の不払が46.5%と最も多いですね。具体的には、時間外労働の手当を、最低賃金を大きく下回った時給300~400円で計算するケースなどが多いようですね。
橋本 そうですね。本来は、法令違反はあってはならないことです。しかしながら現実には、このような労働基準法をはじめとした法令違反が多数報告されています。監理団体は3か月に1回、実習生の受入れ企業を監査する義務があるため、その際に労務管理の不備を是正させていれば、このようなことにはならないはずです。2017年11月から技能実習法が施行されましたが、新制度になっても、まだきちんと制度を運用できている会社ばかりではないのが事実です。
I.P.M.では、受入れ企業の監査を行う時は、賃金台帳やタイムカード等も細かくチェックして、賃金不払いをはじめとした法令違反がないか徹底的に確認しています。
――― なるほど、そこまで行うと、監理団体側の経費が多くかかってしまいませんか。
橋本 確かに受け入れ企業の労務管理のチェックを徹底することは、監理団体にとっても負荷が大きくなるため、どうしても監理団体監理費(※)が高くなってしまいます。企業側では最初は監理団体監理費の安い団体が魅力的に映るようですが、実際に実習生を受け入れてみると言語や文化風習の違いからさまざまなトラブルが発生します。結果的に監理団体をI.P.M.に変更するケースがかなりあります。
また、職場内のコミュニケーション不足から生じる誤解や外国人であることの配慮が欠けると、実習生のモチベーションはたちまち下がってしまいます。実習生は皆、まじめで勉強熱心で、日本に憧れてやってきています。実習生たちの夢と希望を壊さないように、受入れ企業の方々も熱意をもって、監理団体と一緒になって実習生を育てていってもらいたく思います。
※監理団体監理費 企業が技能実習生を受け入れるに当たり、監理団体に払う費用
――― 技能実習生とのコミュニケーションにおいて最も重要である、日本語の教育の必要性についてはどのように感じていらっしゃいますでしょうか。
橋本 日本語教育のサポートは実習生へのケアの中でも特に大切ですね。実習生にとって日本語が上達すれば日本での生活も充実しますし、技能の修得もしやすくなります。そして帰国後のキャリアアップにもつながります。逆に、語学力不足はコミュニケーションに支障をきたすため、業種によっては労災事故のリスクも高くなってしまいます。
――― 入国後講習が終わった後の日本語教育については、どの監理団体も一定のサポートはしているのでしょうか。
橋本 実際のところ、入国後講習終了後の日本語教育のサポート体制については、法令の定めがないために企業や監理団体によってかなり差があります。I.P.M.では技能実習期間中も通信教育にて技能実習生の日本語の勉強のサポートをしています。
――― 入国後講習のあとのケアがない監理団体も多い中、日本語の通信教育のサポートが継続するのは素晴らしいですね。
橋本 実習生の中には日本語検定のN1(※)に合格したり、帰国後に日本語教師になる人もいます。実習生たち自身の頑張りは勿論ですが、実習中の日本語教育のサポートの成果の表れでもあるため、私たちとしても誇りに思います。
※日本語能力検定 外国人が日本語の知識と運用能力を測定する検定。N1~N5の5つのレベルがある。一番易しいレベルがN5で、一番難しいレベルがN1で、N1では高校生程度の読解力が求められる。
――― I.P.M.では傘下の実習生受入れ企業の労務管理もきちんとしていますから、実習生からの評判も良いだろうと思います。
橋本 はい、実習期間中だけでなく、受入れ企業の評判は、技能実習生が帰国した後も口コミで広がります。実習生から評判がよかった企業が、新しく技能実習生を募集すると、企業の規模に関わらず、あっという間に応募が集まります。
企業にとってはたくさん応募があれば、より優秀な技能実習生を採用することができますから、企業側のそれまでの努力がここで報われることになるわけですね。また、優秀な外国人技能実習生を受け入れることによって、日本人従業員の意識改革になるとか、職場全体のコミュニケーションが良くなった等の意見も多く頂戴しております。
I.P.M.では六甲山研修センターにおいて、企業配属前の技能実習生との交流を通した勉強会や見学会を積極的に行っています。それは六甲山研修センターを技能実習生の入国後講習のためだけの施設ではなく、企業や社会保険労務士などの専門家、監理団体が外国人労働者について議論し、理解を深め、その在り方を考える場所であるべきだと考えているためです。
――― 優秀な実習生を受け入れるためには、企業側の努力が大切であり、技能実習制度は企業側の高い倫理観と努力があってはじめて意味のある制度だということがよく分かりました。企業に関わる社会保険労務士なども、そうした認識を強く持つ必要があると思いました。本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。
(執筆 東京都社会保険労務士会 HR NEWS TOPICS編集部 永井知子)