「ベンチャーの母」として」
―――ベンチャーに対する想いは何ですか
今野(以下 敬称略) ベンチャー達の能力をどんどん生かして、この国のために、彼らの仕事、財産、サービスを世に顕在化させて、お役に立たせてこそ、ベンチャーではないかと思います。彼らを「殺さない」ためにも、ベンチャーの母として応援していきたいと思っています。
―――会社が負うベンチャーを応援するという使命を果たすポイントである、社員、中でも電話相談員はどのように生まれるのでしょうか。
今野 相談員は、その相談されるジャンルを経験してきた人、資格、思いの厚さが重要です。
特に自分の経験を生かしたいという想いが大切です。こういった志を持った人は自然と集まってきます。
自然と社員が集まる会社が良好
―――「人が自然と集まる」とはどのようなことでしょうか。
今野 社員さん達が、やりがいや生きがいをもって仕事をすることができる環境が大切だと思います。そういった環境があれば、自然と人が集まるのではないかと思います。
「働き甲斐のある会社」世界中で行われたアンケート調査がありまして、「自分自身が行っている仕事、会社でやっている仕事それぞれが、『世の中のためになっていますか』」という質問では、ほとんどの社員が「感じている」と答えています。これは、他の会社に比べてダントツに高く、これが口コミで評判が広がり、社員が集まる仕組みになっているのではないかと思います。一番うれしいのは、社員が、自分の知り合いを連れてきてくれることです。社員が、自分の会社に自信や信頼があるからできることであって、また、紹介した社員は自分の会社に対する自覚を持つようになりますし、紹介されて入社した社員は、紹介した社員に恥をかかせないようがんばります。双方に良い関係が築けるようになります。この関係が最高だと思います。
―――自分の知り合いに紹介できるような会社にすることが重要なのですね。電話相談員には非常に高い技術を要求されるかと思いますが、社内での訓練や研修はどのようにされているのでしょうか。
今野 まず新入社員の研修があって、部署ごとの研修があります。これには決まったカリキュラムがありまして、長いところですと3か月ぐらいかかります。サービスの上で必要な技術を、その部署のメンバーから習得していく方法となっています。例えば、自動車教習所のように何段階ものカリキュラムがありますように、カリキュラムの個人ごとのファイルを作り、「ここは教えた、ここはクリアした」と判子を押して、研修の習得具合を視覚化しています。これによって、週所定日数に違いがあって、研修の進み具合に違いがある社員でも、一目で技術の習得具合が分かるようになっています。入社研修でも、知識の研修に加え、実際のロールプレイングをして、実践に備えるようにしています。また、入社してからも技術が正しい方向で定着できているか、定期的に同じように訓練や研修をし、記録して残して、蓄積されるようにしております。さらにミステリーコール(実際のお客様を装って、電話応対の実態を把握する調査)を行って、品質保証に沿って、そのサービスがしっかりと行われているかの確認もしています。その結果フィードバックをし、次の研修にも生かしております。当社では「健康相談」というサービスも行っていますが、看護師や保健師が100名ほどいます。健康相談にはその季節ごとの注意点(夏で言えば熱中症など)がありますので、毎月、ドクターを講師として招き、その注意点に関する研修を行っています。
―――相談員の資質向上に力を入れることによって、会社が発展していくということでしょうか。
今野 当社は、電話さえあればできる業務ですので、社員に対する研修が、設備投資になります。「人材投資」です。「企業倫理(内部通報)」では、相談者(委託をした会社の社員)の声を、委託をした企業に報告をするのですが、その報告の内容に対する企業側の声を、相談員がしっかりフィードバックを受け、業務に対する満足感を持つようにしています。顧客満足度調査を毎年行い、100点満点になることはありませんが、ならなかった不満の部分を、毎年一つ一つ無くしていこうと、企業努力をしています。
―――視覚化することによって、研修や評価は、社員にとって公平になりますね。
今野 50期目を迎えて、最初は立派な制度はなかったのでしたが、少しづつ社員が知恵を出しながらやっていくうちに、「仕組み」になりました。しかし、他の会社にはないことだと思いますが、社員が技術を習得するのもとても重要なことを前提とし、企業の理念や、我々に与えられた社会的使命を、「How to」の前にしっかり持ってもらいたいと思っています。
企業理念「個性と人間性が尊重される秩序ある社会」
―――企業理念で「個性と人間性が尊重される秩序ある社会を目指します」とございますが、実際にどうやって秩序ある社会を目指すのですか。
今野 私が生きてきた時代は、私がしてきたことは何をするのも「女性初」で、それを開拓してきました。私がめげずにやってこれたのも、そのサービスを使ってくれる人の「絶対に(会社を)失くさないでくださいね」と、会社も与えられた使命に応えるという双方の「必死さ」があったからだと思います。誰でも、与えられた使命はあるはずだと思います。私が昔から大事にしている言葉が「Here now」です。なぜ私がここにいるのか、私がここにいる意味は何なのか、無意識に問い続けてきました。私の会社の年表を見て、新しく始めてきたサービスを見ると、それはすべて法律違反でした。赤ちゃん110番は、初めは、二重課金制度の禁止による法律違反でした。神の手と呼ばれる医師とともに闘い、法律を変えました。今では自治体が私の会社のサービスを使っています。秩序ある社会にするという私の使命は、社会の根底からある、その時々の人々が持つニーズを、サービスにすることだと思います。
―――その時代のニーズ、困った人のHelpを見つける感覚が素晴らしいと思います。その感覚はどのようにして身に着けたのでしょうか。
今野 若いころ、海外に行き色々な経験を積みました。この経験が役に立っていると思います。
今のベンチャー企業に向けて
―――今野社長は、女性初や新しいサービスを発信し続けベンチャーの先駆けとも言えますが、今のベンチャー企業に向けてアドバイスはございますか。
今野 私は今、いくつかのベンチャー企業の社外取締役をやっておりますが、大企業の道を行く人もいれば、苦労をして、ベンチャーを立ち上げる人もいます。共通して言えるのは、本当に成功する人は、過去にいじめを受けたり、とんでもない苦労や試練を受け、乗り越えてきた人が多いです。今は、学校も親も(子を)守ることしか考えていないと思います。人は、年齢によってやるべき体験・経験、喜びも悲しみも色々あります。今は時代によってか、それが無くなってしまい、今の子ども達はかわいそうだと思います。私は体中、傷だらけです。女でしたが、暴れまくったからです。でもそういった経験が、「絆」になりました。今の時代でしたら考えられません。私は色々な経験、苦しみ、悲しみ、苦労をすべきだと思います。それを乗り越えてきた人が、ベンチャーになるのではないかと思います。この経験が大きなチャンスです。
今後の展望~お年寄りの財産の完全燃焼!
―――今後の御社の展望や、どのような社会的ニーズを受け入れていく予定ですか
今野 私は今まで会社を展開してきて、世界的なネットワークを築くことができました。私は元々、国境という考え方がありません。また肩書は関係ないと思います。壁を無くして、新しい時代をもっと切り開いていきたいと思います。そのためには、今の国同士の関係では不可能です。この関係を解決するには、国の力ではなくて、民間力だと思います。国ではできないサービスを展開していきたいと思います。また、私は「命」を大事にしています。例えば、お年寄りの方です。この方たちは、こんな厳しい時代を生きてきて、がんばってこの国を発展させてきました。この人たちを、「定年退職です。お帰りはこちらです!」とは言えません。彼らは、人脈・信頼・技術・知識という財産を持っています。これでは、「持ち逃げ厳禁(と呼んでいます)」です。私はこれを許すことができません。「ちゃんと(財産を)生かして、置いて行きなさいよ」と思います。では何に、彼らの財産を完全燃焼させればいいのか、そういった場が必要なのではないかということです。そして彼らから「(完全燃焼できる場を)作ってくれよ」とも言われます。私が50代でしたら、きっとこの場を作ることはできないでしょう。私は80歳を超えていて、彼らと同世代なので、作ることができるのだと思います。これから彼らが財産を完全燃焼できるような場を作っていきたいと思います。
―――今野社長、ありがとうございました。
最後に
今野社長は、「ベンチャーの母」と言われているように、深い母性を感じることができました。また、これまで様々な女性初の快挙を成し続けたサービスには、この母性や今野社長が経験してきた様々なことが影響しているのではないかと思いました。ダイヤル・サービス株式会社の社員の名刺の裏には、「May I help you」の文字があります。「どうなさいましたか。手伝いましょうか」。我々士業や、どんな企業も、事業を運営するにあたって、忘れてはいけない精神なのではないかと思いました。
(執筆 東京都社会保険労務士会 HR NEWS TOPICS編集部 西方克巳)


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