派遣会社の現場の実態と可能性(1) さまざまな人材調達手法との違い

2018年7月6日


近年のIT技術の発展、働き方改革などにより経済・産業構造は大きく転換し、労働者に求められる能力は高度化、専門化しています。このような中で、雇用機会の創出・確保を図るとともに、労働力需給のミスマッチの拡大を抑制するために、労働者派遣事業や職業紹介事業などの労働力需給調整機能の強化が求められています。
また、2018年10月には改正労働者派遣法(※)により、それまで継続的に就業していた派遣スタッフの雇用契約の転換等も注目されています。

※改正労働者派遣法:2015年9月30日施行の改正労働者派遣法により、派遣社員(個人単位)と派遣先(事業所単位)に対して派遣できる期間(派遣可能期間)は、原則3年になった。 

今回は、株式会社リクルートスタッフィングの赤塚智大様に人材派遣会社の現場の状況や、求人広告による採用や人材紹介会社などの人材調達手法との違いを取材しました。
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人材派遣業の現場について

―――本日はありがとうございます。まずは赤塚様のご経歴について教えていただけますか。

赤塚(以下、敬称略)リクルートグループで人材業界を長く経験させていただいています。株式会社リクルート・株式会社リクルートキャリアで新卒採用・中途採用について広告と人材紹介を10年程経験した後、株式会社リクルートスタッフィングでの派遣業を経験し、3年弱となります。コンサルティング職・営業職など、常に顧客接点に立つ仕事をしていました。今はマネージャーとして部署を管理しています。

―――株式会社リクルートスタッフィング(以下 リクルートスタッフィングという)について教えていただけますか。

赤塚 リクルートスタッフィングは、人材派遣事業、人材紹介(紹介予定派遣)事業、アウトソーシング事業を行っています。
現在弊社に登録してくださっている派遣スタッフの方は約107万人、実際に就業してくださっている方は約5万人にのぼります。

―――赤塚さんの部署の人数構成とメンバーそれぞれの役割を教えていただけますか。

赤塚 現在、私達の部署では、東京都の港区、品川区、大田区内の大企業を中心に60社程担当しており、就業派遣スタッフの方は約1,000人になります。この業務を、営業8人、派遣スタッフの方のフォロー担当3人の合計11名のメンバーで行っています。
派遣スタッフの方は期間ごとに契約を締結しながら働くため、全体の7割くらいが既存のスタッフの方で、残りの3割くらいが新規のスタッフの方になります。契約を終了する派遣スタッフの方は毎月約6~10%程で、契約終了の理由は、引越しや配偶者の転勤によるものなどが多いですね。

派遣業の営業や就業サポートの難しさや喜び

―――このお仕事をしていく上での難しさや、やりがいについて教えていただけますか。

赤塚 何よりも、多くの派遣スタッフの方と伴走していくというのが難しさであり、喜びでもありますね。労働環境や業務について相談を頂くこともあります。多いのは、人間関係や環境設備、業務量や業務の進め方などについての相談です。こういった場合、フォロー担当者が両者の間に入り、改善の提案をさせていただくことになります。
中には現状の就業先での派遣契約終了を希望する派遣スタッフの方もいますが、他の仕事を紹介することで解決し、リクルートスタッフィングで引き続き働いてくれることもあります。
営業担当やフォロー担当の努力により、派遣スタッフや企業の担当者から喜びの声を頂くことも多く、そういったときにこの仕事をやっていて良かったと強く思います。

―――企業側からのご意見とその解決策などについても教えていただけますか。

赤塚 例えば企業側から、特定の業界経験を指定されるなど、派遣スタッフのスキルや経験についての要望が高い場合は、候補者がすぐに見つからないこともあります。例えば、貿易実務の業務で、メーカーでの実務経験のある派遣スタッフの方を希望している場合などですね。
ただし、実際の業務内容についてよく聞いてみると、必ずしもメーカーでの貿易実務経験が必要なわけではなく、物流経験者で対応できる場合などもあります。
こういった部分について、企業のニーズをよく聞いたうえで解決策を提案することも、私達の大切な役割になります。

人材紹介業界、人材派遣業界での人材調達手法の違い

―――赤塚さんは、人材派遣以外にも、求人広告・人材紹介と様々な現場での人材調達に関わった経験をお持ちですね。違いについてはどう思われますか?

赤塚 本質的な違いは、顧客の採用ニーズの差です。たとえば正社員採用でも、新卒採用と中途採用では全然違います。
人材紹介では実務経験がある人が求められますから、やはり中途採用が多いです。それに対して新卒採用では求人広告で募集するケースが多くなります。
また、新卒採用の場合、採用が成功したかどうかの結果はすぐに出ません。よって10年後を見据えた経営を考え、事業計画を考えたり、学歴などではわからないポテンシャルについて企業側と話し合います。結果測定は難しいですが、採用者の継続勤務年数などが評価指標になるかと思います。
それに対して中途採用は、今必要な業務について対応できる人を探しますから、具体的なスキルや業務経験について企業側と話し合います。中途採用については、採用した人の評価もすぐにわかるので、結果もすぐに表れます。
このように採用目的の時間軸が大きく違うため、商談のスピードも大きく違うことになります。

―――人材派遣業界ではどうでしょうか?

赤塚 求人広告や人材紹介の場合は、求職者の採用が決まり、入社した時点で役割は終わることになります。これに対して人材派遣では、派遣スタッフの方は期間毎に契約締結しながら働くため、就業開始後も、フォロー担当が派遣スタッフの働きやすさやキャリアをサポートし続ける、という部分が最も違います。何か課題があればすぐに解決しないといけない大変さはありますが、「ここで働けて良かった」という声もすぐにいただけるので、やりがいを実感しやすい仕事です。

―――なるほど、派遣業の現場の実態や、他の人材調達手法との違いについて、大変よく分かりました。次回は、法改正や今後の派遣業について、現場で感じられることについて教えて下さい。

(執筆 東京都社会保険労務士会 HR NEWS TOPICS編集部 永井知子)