医師の労働時間の検討の最新状況 ~医師の働き方改革検討会 構成員の猪俣武範先生に聞く①
2019年3月18日
社会的に労働時間についての法改正や、労働時間の短縮に関する話題が様々なところで流布されていますが、その中でも医師の労働時間に関しては、業務の特殊性からも様々な検討がなされています。今回は、厚生労働省の「医師の働き方に関する検討会(以降、検討会)」の構成員である、猪俣武範先生にお話をお伺いしました。2回に分けてお伝えします。
※:猪俣先生のインタビューは平成31年3月1日に行われています。
検討会からの情報は随時更新されますので、最新情報へのアクセスをお願いします。
―――本日はお忙しい中お時間を頂戴いたしましてどうもありがとうございます。まず、先生が医師の働き方改革検討会の構成員になられた経緯や、検討会のメンバー構成をお聞かせください。
猪俣先生(以下、敬称略) 厚生労働省としての選定の過程は存じませんが、参加されている構成員の方々については、年齢的には若手、中堅、マネジメント層、大学病院の研究者を含めた勤務医、病院経営者、コ・メディカルの代表者など、医師の働き方に関係する方々がバランスよく選ばれている印象です。
検討会では活発な意見交換が行われています。自分も当事者として、積極的に問題点を指摘し、意見を述べています。
―――今回の働き方改革は、医師の中でもどのような働き方をしている方に焦点をあてているのか、具体的なモデルはありますか。また、検討会の目指すゴールは何でしょうか。
猪俣 検討会で話し合われているのは、次の点です。まず、今まで労働基準法の枠外に置かれていた、労働者としての医師の立場を明確にすること。また、平成31年4月施行の働き方関連法について、医師への適用に与えられた5年の施行猶予期間中に、各医療機関が体制を整え準備をし、平成36年4月の施行時には、混乱なく医療の運営が行われることです。
参考:本年4月施行法案リーフレット
https://www.mhlw.go.jp/content/000474499.pdf
―――では今回検討対象となっているのは、医師全般の話ではないということですね。
猪俣 はい、あくまでも労働基準法で守られる立場にある、労働者としての医師の労働についての検討を行っています。具体的には勤務医と称される方々です。
―――具体的に労働時間が問題になっている医師は、どのような働き方をされている方々ですか。
猪俣 厚生労働省でアンケートを取っています。その結果、労働時間で問題のある働き方をしている医師は、大学病院勤務医、救急病院勤務医、卒後3から5年の医師、20代から40代の中堅医師、産婦人科の医師、外科系の医師、救急科の医師などです。
問題とされている階層の医師は、全体の割合で言うと10.5%(年間1,920時間超が6.0%、年間2,400時間超が2.7%、年間2,880時間超が1.8%)。年間時間外1,920時間超の医師がいる医療機関の実像は、病院の約3割、大学病院の約9割、救急機能を有する病院の約3割(救命救急センター機能を有する病院は約8割)となっています。
第20回検討会 資料2より
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000487950.pdf
第19回検討会 資料3より
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000481795.pdf
―――検討会で審議されている課題について、具体的にお聞かせください。
猪俣 勤務医の労働基準法内での働き方を模索しています。地方の医療体制を崩さず、日本の医療水準を維持しつつ、労働時間の法規制を守るのは難しいことです。検討会においては、労働時間については継続審議となっています。就労時間のモニタリング、タスクフォースなどの指針は、今後、厚生労働省から出る予定と聞いています。
―――検討会で議論されている労働時間についてご説明をお願いします。
猪俣 今回の検討会における医師の時間外労働時間規制については、当面の目指すところは月100時間、年間960時間です。
ただし、医療体制を守るために、医療機関において、労働契約を結び、36協定を締結し、若年医師の技能習得のための認定基準を満たすと評価された医療機関において申請が認可された場合に限り、時間外労働時間が年1,860時間まで可能となります(この労働時間が必要な医師はリサーチの結果全体の10%と言われています。)。
―――なるほど、あくまで認可された場合のみ、例外的な運用が認められるということなのですね。医療における労働時間管理は、社会的にイメージされているよりも厳格に行われるものだと言えそうですね。
猪俣 はい、あくまで原則は一般的な労基法上の基準と同じです。例外を設ける理由は、医療サービスの特性上、医師はいつでも待機していなければならず、急患対応など勤務体系が崩れがちなこともあり、医療を守るために時間の余剰が必要(バッファー)との考えから来ています。将来的には、勤務医全般について年間960時間を目指すとしています。
第19回検討会 資料1より :C水準(研修医等)を除く
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000482859.pdf
第20回検討会 資料2より https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000487950.pdf
(②に続く)
(執筆 東京都社会保険労務士会 HR NEWS TOPICS編集部 大橋 佐代)
【参考】