中華圏からの労働者に関する最新情報と認識ギャップ
2018年10月16日
厚生労働省が発表した外国人雇用状況報告の直近の集計結果によると、2017年10月末の時点で外国人労働者は約128万人となっています。そのうち中国籍の労働者は372,263人で全体の29.1%を占めています。
このような中、中華圏からの労働者の労務問題について、株式会社クロスコスモスの代表取締役でありASIA-NET代表の 吉村章先生にインタビューを行いました。
株式会社クロスコスモス、ASIA-NETのホームページはこちら
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―――本日はありがとうございます。吉村先生は1987年~1996年まで台北に駐在し、帰国後は中国でのビジネスに本格的に乗り出し、これまで30年以上、中華圏を中心にビジネスに関わっていらっしゃいます。日本で働く中華圏の人材の労務事情に関しては、どのように考えていらっしゃいますでしょうか。
吉村(以下、敬称略)まず言えるのは、採用する側と採用される側のミスマッチがとても大きいということです。例えば、採用する側の一般的な日本企業では外国人労働者に対して
① 日本人と同じように働いて欲しい
② 専門技能を活かして即戦力として働いて欲しい
③ 日本語できちんとコミュニケーションが取れる、日本語が上手な人が欲しい
と考えています。これはある意味、採用する側の都合で、なかなかそんな人材は見つかりません。最初のポイントは「日本人と同じように・・・」です。
―――具体的にお聞かせいただけますでしょうか。
吉村 企業が外国人スタッフに期待する「日本人と同じように働いて欲しい」というのは、組織の一員として日本人といっしょに働ける人、協調性や謙虚さ、献身的な態度を求めています。ひとりひとりに明確な権限を与えるのではなく、チームや組織単位で仕事を行い、動くのが一般的であり、外国人スタッフにもそうして欲しいと考えています。
また会社は「家」と同じと考えてくれて、ときには上司から部下の指導をするとき、「社長になったつもりで会社のために考えて・・・」といった意識を持っている上司も少なくありません。これは外国人スタッフにとってかなり違和感があることです。なぜならば、現場で動くスタッフとマネージメントを行う管理職とでは役割が違うと考えているからです。
専門学校や大学の就職指導の方法にも問題があります。専門学校や大学で就職指導をする担当者は留学生がいい会社から内定をもらうために面接で「NHK」と言うように指導しています。
―――NHKですか?
吉村:はい、「NHK」です。「NHK」とは日本人と同じように、何でもやります(N)、ずっと働きます(働くのH)、懸け橋になります(K)ということです。しかし、就職する側の外国人は本当にそう考えているでしょうか?NHKではなく、自分のキャリアになることをやりたい、いずれは転職するかも、と考えている外国人も少なくないはずです。
―――採用する側と応募者側では意識に大きな差があるのですね。
吉村 はい。就職指導の担当者は、逆に「3K」は言ってはいけないと指導します。「3K」とは面接のとき、①給与のことを聞いてはいけない、②勤務地を聞いてはいけない、③休暇のことを聞いてはいけない、ということです。
外国人の中には「東京ならいいが地方勤務なら行きたくない」とか、「いつになったら昇進や昇給があるか」とか、「休暇は自由に取れるか」など、面接で採用担当者に「3K」を本当に聞く人がいます。就職指導の担当者は「そんなことを面接で聞いてはだめ」と指導するわけですが、採用する側も応募する側も(応募する外国人を指導する就職指導側も)、複雑な意識の差がありますね。どれが本音でどれが建前か・・・。
企業の人事担当者側もそういう外国人の本音を面接では簡単に見破れないでしょう。そもそも、企業側のほうもどういう人材にどのように働いて欲しいという点を明確にしないまま、採用しているからです。日本人と同じように・・・、専門技術を活かして即戦力で・・・、日本語はN1じゃないとだめ・・・。考えてみればこれらは採用する側の都合ですね。虫のいい話です。
日本では採用した社員を教育し、いろいろな部署で経験を積み、適材適所で配置換え、部署替えも一般的です。専門的な職場に着く人を除けば、日本企業では普通のことです。就職指導の担当者は外国人に「TDK」も要注意と教える。
―――今度は「TDK」ですか?
吉村 採用担当者に「将来転職(T)を考えていますか」、「独立(D)したいですか」、「帰国(K)の予定はありますか」、と聞かれたときには「NO」と答えるように指導を受けているのです。実のところはだいたい3年くらいが目安。自分に合わない職場だと転職をしてしまう外国人も多いです。将来独立したいと思っている人、いずれは国に帰りたいと思っている人、どちらも多いです。面接時のミスマッチで入社しても比較的短期間で辞めてしまう外国人が多いのが現状です。
―――応募者側は日本企業をどのように考えているのでしょうか。
吉村 外国人は言うべきことははっきり言います。明確かつ具体的な指示を求めています。組織においても果たすべき役割や権限を明確にしてほしいと考えていますし、仕事は収入を得る手段ととらえています。よって時間外労働などについては否定的に考えています。ものごとをはっきり主張する、つまり、「主張することが評価される文化」、外国ではこれが一般的です。一方、日本では以心伝心、阿吽の呼吸でものごとを進めようとする、つまり、「悟り合うことを重んじる文化」が日本の特徴です。
―――日本語の能力はどうでしょう?
吉村 日本語についても、日本語能力検定※で最低N2、できればN1という高いレベルを期待する担当者が多いですね。もちろん日本語は上手なほうがいい。しかし、本当に仕事で使う日本語はどの会社も会社に入ってから現場で再教育するのが普通で、最低限の会話力と理解力さえあればいいはずです。N1に固執すると優秀な人材を見落とすことになります。機会損失です。これは中小企業より、大企業のほうがそうした傾向が高いですね。
※日本語能力検定 外国人が日本語の知識と運用能力を測定する検定。N1~N5の5つのレベルがある。一番易しいレベルがN5で、一番難しいレベルがN1で、N1では高校生程度の読解力が求められる。
―――外国人労働者にとって日本の企業は魅力的なのでしょうか。
吉村 魅力的です。福利厚生もいいし、給与も高いし、社員を教育するところは特に魅力的です。しかし、入ってから失望する人が圧倒的に多い。やはり企業文化や働いている人の意識が違う。外国人とってはアメリカやヨーロッパのようにジョブディスクリプションが明確になっているほうが働きやすいようです。日本に来る外国人は、日本の労働市場に期待しているのではなく、日本人の人柄や、アニメや映画などの日本の文化などが好きだからという理由もあるかもしれませんね。
―――日本の労働市場に対しての期待はあまりないのですね。
吉村 中華圏の経済事情も近年急速に発展していますし、技術もかなり進んでいます。今では中国でも日本で同じくらい稼げるようになっていますし、わざわざ日本に来て働くメリットはあまりないのが現状かもしれません。
また、日本の企業は福利厚生や研修制度が充実しているとはいっても、休暇があってもあまり取れないと思われています。福利厚生として日帰りバス旅行などを企画する日本企業もありますが、外国人労働者の多くはそのようなものは求めていません。
―――日本の人事制度に対してはどのように思われているのでしょうか。
吉村 日本の企業は人事評価制度が曖昧であり、いつ主任になれるかなど、昇格の基準などもよくわからないと思われています。これではモチベーションが上がらないのも当然です。年功序列制度は日本の伝統的な人事制度ですが、外国人にとってはなかなか理解できないものです。
―――それではどのような制度にするのが理想的でしょうか。
吉村 外国人労働者にきちんと権限を与えることですね。評価についても協調性などで判断するのではなく明確な基準を設定するべきです。成果については的確に査定し、それに見合った報酬を与えることです。少々高い目標であっても、評価や報酬にきちんと反映し、プラスしてインセンティブをつけると外国人労働者は本当によく働きます。協調性、責任感、自主性、将来性といった評価基基準は敬遠されがちです。見る人によって判断が違ってしまうような評価のしかたは要注意です。
また仕事を任せる際には、途中で進捗状況を確認し、必要に応じて都度指導するようにすれば、きちんと成果を出します。日本語については、会社に入ってから現場で必要な言葉を、必要な順序できちんと教育すればいいのです。
先ほど外国人はだいたい3年くらいで転職を考える人が多いと言いましたが、6年、9年と続くと、今度はあまり辞めなくなります。そして10年定着した人は恐らくもう辞めないでしょう。(よほどのことない限り) 日本の人事担当者が外国人の就業意識をもっと理解して、外国人労働者のモチベーションが上がるような体制づくりが大切ですね。
―――本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。
(執筆 東京都社会保険労務士会 HR NEWS TOPICS編集部 永井知子)