LGBTも働きやすい職場環境に向けて今すぐできる取り組みとは

2019年10月30日


近年、LGBT(※1)の就業環境に対して社会的な関心が高まっています。

男女雇用機会均等法に基づくセクハラ指針(※2)において、セクシュアルハラスメントには性的指向や性自認に関する言動を含むと明記するとともに、厚生労働省が採用選考の指針を示した「公正な採用選考の基本」においては「LGBT等性的マイノリティの方(性的指向及び性自認に基づく差別)など特定の人を排除しないこと 」と明記され、企業やそこで働く人々にLGBTについての理解促進や多様性を尊重するための取り組みが求められています。

LGBTも働きやすい職場環境づくりの第一歩として、今すぐできる取り組みとは何か?

認定NPO法人ReBitキャリア事業部マネージャー中島潤様にご自身の就職活動、職場での実体験を交えてお話を伺いました。

 

※1レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(生まれたときのからだの性をもとに割り当てられた性と、自認する性が異なる人)の頭文字で、性的少数者を指す言葉としても使われます。この他にも多様なセクシュアリティが存在します。

※2事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針

LGBTもありのままでオトナになれる社会へ

―――本日はよろしくお願いいたします。まず、貴団体の概要を教えてください。
中島様(以下、敬称略) ReBitはLGBTを含めた全ての子どもが、ありのままの自分で大人になれる社会を目指す認定NPO法人です。
団体名には「少しずつ(Bit)」を「何度でも(Re)」繰り返すことにより社会が前進してほしい、という願いが込められ、LGBTの人もLGBTでない人も、大学生や20代の若者、約500名が参加しています。
2009年に早稲田大学の学生団体としてスタートし2014年にNPO法人、2018年に認定NPO法人となりました。

―――具体的にはどのような事業を行っているのでしょうか?
中島 子どもが大人になっていく各段階における困難を解消していくことに取り組んでいます。
事業は大きく3つの柱を持っていまして、
1つ目は団体設立当初から行っている教育現場へのLGBT教育事業です。
児童生徒や教職員向けに出張授業・研修の形で多様な性についてお話させていただく活動を実施しています。

2つ目は2013年より開始したキャリア事業です。
ReBitのメンバー自身が就職活動を通じて、学生から社会人になる過程で困難に直面したことがきっかけとなり、子どもたちが学校の中でだけ安心、安全に過ごせる状況を作るのでは無く、学校を出たその先の社会でも、そのままの自分で働き、大人になれる環境がつくれるよう、働きかけていきたいという想いでキャリア事業がスタートしました。
これまで約2,000名のLGBT就活生に直接キャリア支援を実施し、約200社に対してLGBTについての理解を深める研修を実施しています。

3つ目はリーダー育成事業です。
自らの地域で、社会課題を解決したい、LGBTや多様な性についての発信活動を行いたい、と考えている若手リーダーを、全国から募集し、育成していくという取り組みです。
当団体のノウハウ、スピーカースキル、発信活動を行う際の想い、どのように継続的な活動をしていくのかを半年間かけてお伝えし、その修了生達が各地で取り組みを行っていきます。

すんなりと就職活動のスタートラインに立てなかった

―――ありがとうございます。ReBitのメンバーが就職活動を通じて学生から社会人になる過程で困難に直面したことがキャリア事業開始のきっかけとのことですが、中島さんのご経歴と共にお聞かせいただけますか?

中島 ReBitには学部時代に学生メンバーとして在籍していました。
大学卒業後は5年民間企業で働き、その後2年間大学院に在籍し大学院修了後に職員としてReBitに就職しました。
学生時代から、自分のことは女性でも、男性でもないと認識していていましたが、当時は「カミングアウトをして働いているLGBTの社会人」というロールモデルをほとんど持っていなかったため、男性か女性かどちらかに入らないと、社会には受け入れてもらえないのではないかと思っていました。

どう働くか?どんな仕事をするか?ではなく、そもそも働けないのではないか?というところで立ち止まってしまっていました。
実際に働いているLGBTの社会人に会って、話を聞いているうちに「じゃあ自分にも働ける場所があるかもしれない」とやっと就職活動のスタートラインに立てました。

履歴書の性別欄、服装、カミングアウト

―――就職活動を進めていく上でどのような困難がありましたか?
中島 履歴書の性別欄をどうするか?スーツはメンズかレディースどっちを着ればいいのか?
自身のセクシュアリティをカミングアウト※するのか?しないのか?
合同説明会か面接か、どのタイミングでカミングアウトするのか?
就活生の多くは、悩まなくても済みそうに思われる箇所で悩んでいました。

※ 性的指向・性自認を相手に伝えること。

―――性別欄や服装がネックになっていたのですね。実際はどうされたのですか?
中島 面接にはメンズのスーツを着て、履歴書の性別欄は空欄にしました。
性別記入必須の会社には、書き方について直接問い合わせをしたり、説明会で質問したりしていました。
選考が進むと1次面接の段階で面接官にカミングアウトしていました。

カミングアウトにより仕事のパフォーマンスが向上した

―――カミングアウトをして就職活動をされていたのですね。何かきっかけがあったのですか?
中島 インターンでの就業中、とあるきっかけでインターンの途中でカミングアウトしました。
すると、カミングアウト後の方が明らかにパフォーマンスが上がりました。
このことから、自分にとっては、セクシュアリティのことを気にしながら働くということは、仕事の成果にも影響が出ることなんだな、と自覚しました。
カミングアウトするかしないか、優先順位は人それぞれだと思います。
ただ、カミングアウトをして働くという選択肢があるのならば、そのほうが自分にとっては働きやすい環境になるはずだと実感しました。

―――そうして挑んだ就職活動、いかがでしたか?
中島 LGBTへの取り組みの有無では志望先を選ばず、国内の中小企業を中心に受けていました。
カミングアウトした結果、選考に進んだ約1/3の企業でトランスジェンダーであることが理由で否定的な反応や選考を断られたりしました。
約2/3の企業で中立的または好意的な反応を頂き、「すでにLGBTの社員がいるから大丈夫だよ」と言ってくれた企業もありました。
そのうちの何社かから内定を頂くことができました。

制度、設備は整っていないけど、あなたと一緒に働きたい

―――おめでとうございます!最終的にはどんな会社に入社されたのですか?

中島 新卒で入社した会社は全体で300人ほどの高齢者福祉に関するベンチャー企業でした。
会社としても、LGBTであるとカミングアウトして入社する人は初めてで、入社前の面談では
「何も知識はなく、特別な制度や設備も整っていないけど、人柄と経験を評価し、中島さんと一緒に働きたい。働く上で困ることについては一つ一つ話し合いをしていきたいと思っている。」と誠実に向き合ってくれました。

入社時に、他の社員に対してどんなふうにセクシュアリティを伝えたいか、あるいは伝えたくないか、ということも、私の意思を確認してくれました。私は、トランスジェンダーであることを明かして就労したいと考えていたので、入社前に人事を通じて伝えていただくようお願いし、入社の時点で、社員のほぼ全員が私のセクシュアリティを知っている状態でした。
入社してからは、宿泊研修、健康診断、着替えスペースをどうするかなどの問題が出てきましたが希望を伝えながら一つ一つ解決していきました。

何かあったらこの人たちに相談できる、きっとサポートしてくれる、困ったことがあったら一緒に考えてくれると思える状況がとても居心地がよかったです。
働き続けられるという実感にも繋がりました。

今すぐ取り組めることは何かを知ること

―――とても素敵な会社ですね。制度や設備が無くても、会社や一緒に働く人々が中島さん個人を尊重されている風土が居心地の良さにつながったのかもしれませんね。

中島 制度や設備が変わることは大事ですが、そこができないからと言って何もできないということでは無いですね。
LGBTへの対応が難しいと思っている方々には、いますぐにでも取り組めることがあるとお伝えしたいです。
LGBTも一緒に働いているよね、じゃあその人が働く上で困ることは?と想像してみてください。
男女兼用トイレや個別更衣室などの設備を整えるにはお金と時間もかかりますが、今すぐ出来ること、出来ないことを整理することで、取り組み可能なことが明らかになります。

会社としてLGBTに関する方針を明文化し社内外に公開したり、困っていたらここに相談するようにと相談窓口を明示するなど、周囲の理解や相談しやすい体制があることで大幅に働きやすさが改善されます。

ダイバーシティ&インクルージョンの取組み全般に言えることですが、いくら制度や設備が整っていても、周囲の理解や配慮が無ければ意味のないものになってしまいます。
ぜひ、制度や設備の話と両輪で、職場の風土醸成という点についても考えていただき、LGBT「も」働きやすい職場の実現に向けて取り組んでみてください。

 

取材した社会保険労務士からひとこと

LGBT施策は、外資系企業や大企業の事例が目立ちますが、企業規模問わず、今すぐにでも取り組み可能なことがあるということは大きな発見ではないでしょうか。
就業規則や制度の整備、外部相談窓口の設置、面接官研修やハラスメント研修にLGBTの事例を紹介し理解を促すなど、まだまだ社労士が支援できることは多いと感じました。
「誰もが自分らしく働くこと」を実現できるよう、社労士としての役割を改めて考えさせられるインタビューでした。

 

(記事執筆・東京都社会保険労務士会HR NEWS TOPICS編集部 飯塚知世)