地域の強みを活かした就労支援による人材確保の促進 鳥取県商工労働部の取り組み②

2019年1月10日


[総務省統計局が発表した人口推計(平成29年10月1日時点)によると、全国47都道府県のうち40道府県の人口が前年に比べて減少しています。人口減少には、出生者数から死亡者数を差し引いた自然増減による要因が大きいですが、県内から県外に移り住むことによる社会増減もまた大きな要因となり、これが地方にとっては課題となっています。
今回は、鳥取県の人材確保や人材育成などの地域活性化の取り組みについて、鳥取県商工労働部 雇用人材局の雇用政策課長である小林靖尚様にインタビューを行いました。
鳥取県商工労働部雇用人材局雇用政策課のHPはこちら

学生の鳥取県内での就職の促進

―――前回は鳥取県の外国人材活躍の支援についてお話していただきました。今回は、鳥取県全体の雇用状況について教えていただけますでしょうか。

小林(以下、敬称略)鳥取県の人手不足は深刻なものとなっています。これは人口の減少が理由ですが、その原因は転出超過です。例えば、鳥取県の高校卒業生(毎年約5千人)のうち約5割が県外の大学に進学します。そして県外進学者の鳥取県へのUターン率は32.8%です。一方、鳥取県内の大学生(県外出身者含む)については、卒業後県外で就職する人が約46.8%となっています。これを人数にすると、毎年1,000人以上が県外に流出していることになります。
そこで鳥取県商工労働部では、県内外からの人材確保の取組を進めています。

―――具体的にはどのような取組なのでしょうか。

小林 まずは、学生の県内就職を促進するための取組です。学生が地元で就職しないのは、地元の企業の情報が得られにくいことも原因の一つであるため、就活情報サイト「とっとり就活ナビ(とりナビ)」で鳥取県内の企業情報や新卒求人情報が検索できるようにしています。このサイトでは、企業説明会等のイベント情報やインターンシップ等の就活情報も併せて掲載しています。大学生が自ら記者となって、県内企業の紹介記事を執筆しSNSなどで拡散することにより、情報発信効果を高めています。
メールアドレスを登録した学生向けにイベント情報や求人情報のメルマガ配信なども行っています。
とっとり就職ナビ(とりナビ)のHP

―――県内就職関連情報の配信はとても便利ですね。その他の取り組みについてはいかがでしょうか。

小林 2018年の夏から、原則1か月以上の「長期有償型」のインターンシップ制度を導入しています。鳥取県内の学生は勿論、県外の学生も利用できるため、Uターン就職につなげることも可能です。無償型と違って有償型では、学生にとっては一定の収入が確保できるため、アルバイトを優先させがちな学生にとっても参加のメリットが生まれ、より実践的な就業体験ができます。企業にとっては、対価を払って実際に働いてもらうことになるため、質の高い学生を選抜できます。このような地域協同型で取り組むインターンシップとしては鳥取県が全国初と考えております。

―――それは画期的な取組ですね。他の取り組みにはどのようなものがありますでしょうか。

小林 鳥取県内で就職する学生や卒業生を対象とした、奨学金返還の助成制度があります。高専、短大、大学、大学院、専門学校生、既卒者(35歳未満)が対象です。助成額は、無利子の場合は賞与奨学金の総額×1/2で、最大で216万円まで可能です。
鳥取県未来人材育成基金のHP
この制度により、最初は県外で就職するつもりだったのが、やはり鳥取で就職しようと思ったという学生の声も多くいただき、大変うれしく思っています。

県外在住者・在職者にも利用しやすい県立ハローワークの設置

―――先ほど米子駅前を歩いたときに「県立ハローワーク」という看板を見かけました。「県立」ですので、国が設置する一般的なハローワークとは違うのですね。

小林 はい、鳥取県立ハローワークは県が開設したハローワークです。鳥取県内では4カ所、あと東京都内と関西地区にも相談窓口を開設し、求職者と企業のマッチングのための支援をしています。それぞれの窓口にコーディネーターを配置しておりますので、県外在住の方も鳥取県での就職の相談や職業紹介が受けられます。また、在職中の方も利用しやすいよう、県内の相談窓口では土曜日も利用できます。

鳥取県立ハローワーク 相談窓口
【鳥取県内】
県立鳥取ハローワーク … JR鳥取駅構内(電話:0857-51-0501)
県立倉吉ハローワーク … 倉吉市パープルタウン1階(電話:0858-24-6112)
県立米子ハローワーク … イオン米子駅前店4階(電話:0859-21-4585)
県立境港ハローワーク … 境港市役所別館1階(電話:0859-44-3395)
【鳥取県外】
県立東京ハローワーク … 東京都千代田区(鳥取県東京本部内  電話:03-5212-9179)
県立関西ハローワーク … 大阪市北区梅田(鳥取県関西本部内 電話:06-6341-1977)

―――県立ハローワークでは、通常のハローワークとは違う独自の支援もしているのでしょうか。

小林 国が設置したハローワークが行う通常の無料職業紹介などに加えて、企業から求職者へ仕事のオファーができるなど、企業の人材戦略の支援も行っています。その他では「子育て応援求人相談会」「生涯現役お仕事相談会」などの出張相談会を行い、女性や高齢者の方々の雇用の機会の拡大を図っています。
県立ハローワークを設置してから、県内の就職決定件数は着実に増加しています。

企業活性化の支援

―――鳥取県では県内企業の支援も積極的に行っていますね。具体的にはどのような内容でしょうか。

小林 鳥取県労働局が公表したデータによると、職業別の有効求人倍率の偏りが大きい傾向がみられます。例えば、事務的職業の有効求人倍率は0.54ですが、販売業やサービス業では2.99、福祉関連事業では2.68となっています。つまり、販売業・サービス業・福祉関連事業では人手が足りないわけです。
そこで鳥取県では、「観光」「食」「健康」をテーマとして、宿泊・飲食、卸・小売業、医療福祉、IT、製造、物流等の分野で、雇用環境を改善、労働生産性の向上を支援するプロジェクトを進めています。このプロジェクトでは、企業と求職者それぞれに向けたセミナー開催や就職支援、人材育成の支援を行っています。中小企業診断士などの無料相談により、売り上げアップや職場環境改善のアドバイスを受けることもできます。
このプロジェクトにより、就業規則改正や観光船の運航ダイヤの見直しなど、業務改善を推進することにより、従業員の満足度や顧客満足度のアップを実現させた観光業の企業などの事例があります。
鳥取県地域活性化雇用創造プロジェクトのHP

―――人材の確保、生産性の向上など広い視野での取り組みをしていますね。貴重なお話を聞かせていただき、どうもありがとうございました。

(執筆 東京都社会保険労務士会 HR NEWS TOPICS編集部 永井知子)