企業ニーズの把握と入学時からの意識づけで留学生の就職率100%を実現 名古屋経済大学キャリアセンターの戦略
2019年12月13日
現在、大学生の留学生の就職状況は就職希望者の半数にとどまっている状況の中で、留学生の就職率を上げたいキャリアセンターはたくさんあると思います。そうした中で、名古屋経済大学は留学生の就職率100%という驚異的な実績を上げています。このノウハウや考え方をお聞きするために、名古屋経済大学 経済学部教授 キャリアセンター長の大黒光一様に伺いました。
―――今日はどうもありがとうございます。まず、現在の留学生の就職状況と、そもそもの問題意識をお聞きしていいですか?
大黒(以下、敬称略) はい、現在、日本に来ている留学生は、日本での就職を希望しているのに、なかなか就職が決まらないという現状があります。そうした中で、やむなく帰国する留学生もいます。また、日本で働くことを諦めて、やむなく母国での就職に切り替える留学生もいます。そうした中で、本学は留学生の希望をかなえ、日本での就職率を上げる事に力を入れてきました。
―――ありがとうございます。留学生の就職難を解決する方法としては、まず要約すると何になりますか?
大黒 はい、企業のニーズのヒアリング、早い段階からの留学生への意識付けなどがあります。
順に説明しますと、まずは、本学の留学生が日本での就職を実現出来るよう、留学生に対する企業の要望をつかむようにしました。
——具体的にはどのように要望をつかむのでしょうか。
大黒 大学にはそれぞれのカラーがありますから、企業が求めるものも各大学に対して違うわけです。この、企業が要望している能力やスキルをつかむことは大変重要です。そのため、私自身が企業に伺い、直接ヒアリングしてきました。
——企業へのヒアリングとは、名古屋経済大学様の独特のアクションですね。
大黒 ヒアリングとはいえ企業側では外国人に対するイメージは漠然としていることが多いですから、直接「学生に求めるものは何ですか?」と企業に質問しても答えは出ません。よって、本学の留学生の特徴をこちらから説明し、どのようなことが企業側のニーズに合いそうであるか相手の反応から判断し、提案する必要がありました。
本学に求人を頂ける企業は、中部地方にある中堅・中小規模の日系企業が多いです。こういった企業では、日本人と同じように働いてもらえる外国人が適している、と推測しました。そうなると、まずは日本語力が求められるはずです。本学では授業や卒業論文、レポートなどあらゆることを全て日本語で行いますから、留学生の日本語力(読む、書く、話す、聴く)は他大学の留学生と比較しても高いと、授業内で接していて感じていました。これは企業側にアピールできるポイントとなると確信しました。
——一般企業の営業のような発想とアクションですね。
大黒 大学教授になる前に、人材サービスの会社で法人営業などの仕事をしていました。その時の経験が役に立っています。学生に対しても企業に対しても、相手が何を求めているのかを把握し、それに対するソリューションを提供することが大切だと考えています。
——次の「早い段階からの留学生への意識付け」については、いかがでしょうか。
大黒 本学の留学生は1年時にキャリア形成についての授業を日本人学生と同じように必修科目として履修します。これは学生に早い段階からキャリアビジョンを持ってもらうためのプログラムで私も授業を行っています。この講義の前半のコマでは、自身のキャリアプランについてどう考えているかを学生に徹底的に考えてもらいます。「なぜ大変な思いをしてまで日本に留学に来たのか」、「なぜ日本の大学で学ぶことを選択したのか」、「なぜ日本の大学の中で本学を選んだのか」について、振り返ってもらいます。もともと日本で働きたいという目的で入学している留学生が多いですから、日本での就職に向けてどんな準備が必要か、どんな科目の履修が必要か、どんな知識・スキルを身につけないといけないのかなども早い段階で意識させます。
―――ありがとうございます。他にも気を付けていらっしゃることはありますか?
大黒 はい、2年生以降卒業までに日本企業で5日以上インターンシップに参加することを必修単位にしていることも特徴の一つです。そしてインターンシップ終了時に企業から評価票をもらい、これを学生にフィードバックします。
——就業体験だけでなく、企業から評価されることも就職活動よりも前に経験しておくのですね。とても参考になりそうですね。
大黒 企業からのフィードバックにより、学生は自分の課題を再認識します。企業からの評価が良くなかった学生に対しては、私を含む担当教員が直接指導します。このように実際に就業体験をすることや、企業からの評価について考える機会を通して、留学生に日本の企業で働くことに対しての理解を深めてもらいます。
このインターンシップにより、学生は日本の企業で働く際の服装や、日本の企業での就労慣習についても体感することができ、この経験が先々の就職活動にも生きてきます。
―――これは大変勉強になるインターンシップですね。
大黒 こういった教育や指導は、就職活動直前に行うより入学時から計画的にスタートした方が効果的です。留学生にとって大切なこと、母国と異なることは早い段階で伝えておいた方が絶対に効果的であると考えています。
——ゴールを目指した計画・アクションを実行しているのですね。
大黒 はい。こういった指導により、本学の留学生は熱心に日本語や仕事を学ぼうとするため、アルバイト先でも評判がよいようです。それは留学生たちが、日本で働くことを早い段階から意識しているからです。
―――ありがとうございます。本日の話をまとめますと、どのようなことになるでしょうか?また今後の展望をお教えください。
大黒 3つあると思います。企業ニーズの把握・理解、入学時からの意識付け、徹底したキャリア教育です。私は留学生に対して時には厳しい指摘をすることもあります。こういった部分も含めて本学では、就職を希望する学生に対してのサポートが充実しています。そのため卒業生は後輩外国人に対して本学への入学を進めてくれます。そういった評判から、日本で働きたいと思っている外国人が本学への入学を希望する。結果よい循環が続いていると考えています。
——外国人同士での情報交換はかなり盛んですよね。よい評判が広まり、学生がさらに集まるのは素晴らしいですね。
大黒 このような取り組みが評価され、本学では、日本語学校の教職員が選ぶ留学生に勧めたい進学先である日本留学AWARDSで4年間で3度入賞しています。本学の理念である「日本・アジアで活躍する人材の育成」が、社会の貢献につながれば本当にありがたいことだと思います。
留学生の就職を必ず実現させるという真摯な姿勢と実践的な内容に大変感銘を受けました。こういったサポートを留学生は勿論、技能実習生やその他の外国人労働者の人材育成にも活かしていければと考えさせられました。
(執筆 東京都社会保険労務士会 HR NEWS TOPIS編集部 永井知子)