神社本庁に聞く ~時代の激変の中で 千年を遥かに超え続く「神道」と「神社」 人と組織の知恵

2021年9月29日


今回は「時代の激変の中で変わらず継承された組織や働き方からの知恵をお聞きする」という企画の1回目として、日本の神社を包括する団体である、神社本庁に取材を行いました。

現在、組織や働き方、また生き方について大きく変化が起きています。コロナウィルス感染症の影響は大きいもののそれ以外の要因も影響した上での変化です。たとえば働く場においてはテレワークが促進され、人との繋がりのあり方が変化しており、また副業化の流れもあります。さらにインターネットによる産業構造の変化で、事業の変化のスピードが速くなっているとも言われています。

こうした変化の中で、変わらない組織や人やあり方の代表として、日本で想起されるのが伝統的な神社であり1000年を遥かに超える歴史を持ちます。こうした生き方や働き方の変化に対し、神道や神社の伝統的な知恵の観点で何か言えることがないのかを、神社本庁所属、神社本庁総合研究所 総合研究部 部長の浅山雅司様、神社本庁の教化広報部の三井紳作様にお伺いしました。

 

 

1 神社や神道は、人々の自然なあり方を包み込むもの

―――この度は、貴重なご機会を頂き誠にありがとうございました。コロナウィルス感染症を始めとした社会の激変の中、企業や組織、個人の生き方も変化しています。そういう中で、千年以上の長い歴史を継承されてきた神道や神社様のあり方に、何か学べることがあるのではないかということでお話をお聞きできればと思います。宜しくお願いいたします。

 

 

浅山様(以下、敬称略) こちらこそこういった機会をありがとうございます。
我々が携わる神社や神道というもののなかには、人々と共に時代を乗り越えてきた、変わらないものや精神があるということは明らかに言えると思います。どういう時代であっても、地域という小さな単位から、より大きな社会にいたるまで、我が国のあらゆる集団や人々は神様と共に歩んできたという歴史があります。

三井様(以下、敬称略) 「社会」という言葉は、社(やしろ)にて会うと書きますが、これは神社に人々が集い、祭りの役割分担をはじめ集落の決め事や情報交換など、交流している姿から出来た言葉だと言われています。様々なことが起こる時期ではありますが、社会の激変を乗り越えて、神社とお祀りされている神々と共にあるあり方に思いをはせていただくことは我々としてもありがたく、少しでもお役に立つことができれば誠に幸いです。宜しくお願いいたします。

 

 

2 リモートワークや人々の孤立について 人の繋がりの原点を神道の世界観から振り返る

 

―――最初に環境についてですが、現在、コロナ禍の中で企業においては急速にリモートワークが進んでいます。業務上、意外に可能な仕事が多いという感想もある一方で、孤立感を深めたりする方もいるようです。神社や神道の視点から何かご示唆頂くことはありますでしょうか。

 

 

浅山 神道では古来「人が集まる場に神が宿る」とされてきました。
神道というのは何か特定の思想があってそれを布教するという宗教ではありません。そうではなく、人々の集まる場には、何か気高いものが宿る、神が降臨される、それを自然に皆でお祀りし、お社/神社を建てる。これらが神道の一つのあり方であり、日本人の信仰の自然なあり方なのです。

三井 コンピュータなどの技術はすごいスピードで上がり、いつの時代も変化は起きますが、自然の摂理や人間の心は、そのスピードには追い付けません。ついていけないから孤立感を深めたり精神を病む方が増える傾向にあるとも考えられます。同じ思いを共有する。それを深められるということで、定期的に「社で会う」ということを神社では重視してきました。企業も人の集まる場ですから、同じことが言えるのではないでしょうか。人が集まるところにこそ、皆の大切にする「力」が生まれるのだと思います。

 

―――なるほど、場を共有することが重要だということですね。遠隔においての情報共有について何か参考になることはありますでしょうか。

 

浅山 遠隔の情報共有ということですと、神道ではむかし遠隔でも特定の神社を崇敬する「講(こう)」と呼ばれる組織が組まれていました。現代でも地域によっては若干残っていますが、特に江戸時代に活動が活発で、有名なものに伊勢の神宮を崇敬する伊勢講がありました。「講」は神社から遠く離れた地域にあるのですが、そこには神社から御師(おし・おんし)と呼ばれる神職がかよい、その崇敬する神社からのお札を配ったり、講員や神社との連絡を担ったり、その神社への定期的なお参りツアーを催すなどして神社と崇敬心との繋がりを保っていました。

しかし、この講ですが、あくまでも地域の人々のその神社や神様への信仰や情熱、語り合いや繋がりが元になって成立していたのであり、遠隔での情報共有というのは強い意識や情熱があってこそ続いたのだと思います。

そういう意味でも、「一つの場にあつまり、情熱・楽しみ・信念を共有する」ということは、遠隔とのつながりを考えるうえで基本となる最も大切なことだと思います。

3 オフィスや人の集まる場の意味合い  「神人共食」に見られる「同じ場で楽しむこと」の重要性

 

―――大変深いご示唆をありがとうございます。そもそもオフィスの意味合いというものは何だったのだろうか、という議論もされています。同じ場所に集まることも大切な意味合いを持ち、集まるからこそ大切にするもの、企業であれば理念や一体である意識でしょうか。そういったものが生まれ得るということでしょうか。

 

浅山 そうですね、神道には、神人共食(しんじんきょうしょく)という言葉があります。祭りにつどった人々が神とともに食事を食べ、神とともに楽しむということです。

神々に対しては心をこめて、礼儀に沿ってお祭りすることが大切ですが、決してそれだけではありません。お祭りの緊張を解いて神前で飲食する機会を直会(なおらい)と呼び重視しています。地域のお祭りのにぎわいなどもそういった機会にあたりますね。神々の前に集い、共に楽しむことが厳粛な儀式と同じくらい大事だということです。神社とは厳格で丁寧な祀りをし、さらに人々が集い楽しみ、神と共に親しむという場所であるのです。そこに文化が生まれ、共通の繋がりが生まれていくのだと思います。

 

4 共通の場で、良いことと悪いことを感じていき、それを神前に呈することで価値観ができる

 

―――楽しむことまで含めることで、その場所における人の繋がりがより深まっていくという考え方ですね。これは、オフィスや場の共有ということの意味について非常に深い示唆になるものだと思います。

 

三井 はい、そういう場があれば、皆で理念の確認ができ、共通の合意や方向性がでてきます。そういう方向性を神様とともに作っていく、ということも神道の感覚であって、地域や共同体の一体感を生み、強い地域や楽しい地域を作るのだと思いますが、神々と私たちの関わりをもう少し見ますと、神様は福をお授けになる働きの他に、罰(バチ)もお与えになる。

誰もバチなど戴きたくないし、辛いことなど共有したくはありませんが、辛いことから逃げず、それを共に乗り越えることで一層強く成長する。罰すら前向きに捉えることで、神々への畏敬がより高まるります。このバチということも大切な考え方だと思います。

単に前向きなことだけではなく、辛いことも含めて共有することが重要ではないでしょうか。

 

―――企業の理念浸透においても個人のキャリア構築などにおいても、理想像や目指す方向性を共有するということはとても意識が持たれることが多いのですが、悪いことの基準やその結果について共有するということはあまり聞いたことがなく、非常に重要なことだと感じました。

 

5 式年遷宮に見る、変化と、変化による成長まで含んで文化を継承していく仕組み

 

―――角度を変えてお聞きしたいのですが、昨今のインターネットの情報化の進展などで、企業や事業の商品サイクルが早くなり、そういう中で企業の存続や変化への対応が問題意識として持たれています。企業や事業が存続していくためには、どのような工夫をしていけばよいのでしょうか。

 

浅山  神社には、神様を変わらずにお祀りするとともに、文化や時代に対応して常に新しく移り変わり人々を巻き込んで存続させていくための仕組みがあると思います。

典型的なのは伊勢の神宮の式年遷宮ですが、これは遥か昔から必ず20年おきに行われており、20年ごとに古いお社を全て新しく建替え、全く新しいものにします。こうしたことを行う最も重要な理由は、神様自身が新しくご自身を再生され力を増されるというお祭り自体に起因する理由が最も重要なものです。

しかしながらその過程で、建設に関わる方々も技術の継承ができますし、成長の支援ができるのです。たとえば、10代で見習いの大工として一回目の式年遷宮に参加した方は、一人前の大工となった30代で二回目の式年遷宮を迎え活躍することになり、50代で三回目を迎え、次代に技術を継承し支援する立場に立つことができるのです。

変化への対応が難しいならば、自らを変化させることや、変化によって成長することまで考えていけばよいのではないかと思います。このような神道の仕組みが何かの参考になれば幸いです。

 

 

―――変化や成長まで含んだ流れにしていく、ということですね、こういった考え方は企業においてあまり聞いたことがなく、大きな示唆になる内容だと思います。ありがとうございます。

 

浅山 はい、そのようにして人の関わり・繋がりから次の時代に繋がっていくわけです。そういう場があれば、親や先輩などのたての繋がりや、友人や同輩の横の繋がりのいずれもが保てていくものだと思います。

神道で重視されるのは、こういった横と縦のつながりが両方重要であるということですし、それは何か考え方をまとめて言葉で伝えるということだけではなく、場と流れを大事にしていく、そしてそれを変わらず見守ってくださる神様を大切にお祀りしていくということだと思うのです。

神道や神社のあり方が少しでも今の変化に対して参考になれば幸いですし、こうした激変の中だからこそ、長い時代の中で変わらずに受け継がれている文化や伝統を大切にして頂きたいと思います。そして、こういう時だからこそ、家族や地域の繋がり、親、先輩、後輩や自分が関わっている方との繋がりを一層大切に思って頂き、そして周りの神社にぜひお参り頂いて、そして家の中に神棚がお祀りされているようであれば、ぜひ一層大切にして頂いて、我々の原点に立ち返って頂ければと思います。

 

  

 

取材した社労士より

大変実り深い取材になりました。
現在の変化の中で、伝統的に継承されてきた知恵の中には、何か参考になることがあるのではないかとは考えておりましたが、予想をはるかに超える知恵の宝庫であると感じました。
時代を超えて継承されてきた、我々の文化の根本にある精神性には、やはり学ぶべきものが本当に多くあり、限りなく広いのだと感じます。

 

「場というものが神聖なものを生み出し、それに対する自然な崇敬の念も生まれるのである」という考え方や思想はとても自然で、かつ深いものであり、企業経営において「理念浸透」「人事施策」などは非常に人工的に、人為的に捉えられる感覚があるのですが、そうではなく、今の人の繋がりの中に、どういう価値や貴重なものが宿っているのか、ということを感じていくことが重要ではないかと思いました。

他にも大変参考になったことは多く、たとえば昔の神社への講のお話、伊勢神宮の式年遷宮の知恵についても、広域において繋がって仕事をすることや、時代の変化に対応する事業や組織のあり方などに、直接繋がるようなことではないかと思います。

 

こうした、企業経営に直接つながるような問題意識での取材は初めての試みでしたのに、大変広いお心で、こだわらず、真摯にお応えいただいた神社本庁様にも、大変に感謝しております。こうした広くこだわりのない、前向きで平等な在り方が神道のあり方ではないかとも感じました。
社労士としても、単に現代的な技術論や常識にとらわれず、我々の貴重な基盤である、古い伝統や知恵に学んでいくことができればと感じました。

(東京都社会保険労務士会 HR NEWS TOPICS 編集部 松井勇策)